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2016年10月06日

ソニー、ファナック、セブン&アイを変えたヘッジファンドThird Point

 

サマリー

・サード・ポイントとは、著名なアクティビスト投資家のダニエル・ローブ氏率いる米大手ヘッジファンド

・サード・ポイントは、米ヤフーCEOを交代させるなどアクティビストファンドとして大きな影響力を持つ

・ソニー、ファナック、セブン&アイなど日本企業にも投資しており、今後の日本株投資が注目される

 

 

セブン&アイのトップ人事を左右したThird Point

Third Point LLC(サード・ポイント)とは、著名なアクティビスト投資家のDaniel Loeb(ダニエル・ローブ)氏率いる米大手ヘッジファンド運営会社です。最近では、2016年3月、ローブ氏がセブン&アイ・ホールディングスに対して送った書簡が話題になりました。当時、「セブン&アイの次期後継者に鈴木敏文会長の子息が就く」との観測が流れたことを受け、ローブ氏が書簡で「次期後継者は適性と能力で選ぶべきだ」とする“世襲批判”を行ったからです。

 

この書簡をきっかけに、鈴木敏文氏が同社会長を退任すると共に、ローブ氏が推薦していた井阪隆一氏が同社の新社長に就任することが決まりました。ローブ氏率いるサード・ポイントがセブン&アイのトップ人事を左右する一因となったのです。

 

このセブン&アイのように、サード・ポイントは日本の大企業に対して多数のアクティビスト投資を行っていることでも有名です。今回は、サード・ポイントが日米で行った投資のうち代表的な事例を見てみましょう。

 

 

米ヤフーCEOをスキャンダルで辞任させる

2012年、サード・ポイントは米ヤフーの株を5.8%も取得し、大株主となり、取締役の人選を巡ってヤフー経営陣と対立していました。当時、ヤフーの業績は悪化し続けており、サード・ポイントは取締役の派遣によりヤフーの経営改善を狙っていたのです。

 

この対立の最中、サード・ポイント代表のローブ氏は膠着した事態を進展させるため、思わぬ手に出ます。対立する経営陣のトップだったスコット・トンプソンCEO(最高経営責任者)に学歴詐称疑惑があることを突き止め、この疑惑の追及を通じてトンプソンCEOの辞任を要求したのです。この疑惑は米国で大きく報道され、トンプソン氏はCEOを辞任した一方、ローブ氏はヤフーの取締役会に加わることになりました。

 

その後、サード・ポイントはヤフーの新CEO就任にグーグル元役員のマリッサ・メイヤー氏を推し、ヤフーの経営改革を託します。この結果、メイヤー氏がCEOに就任して1年強経つと、ヤフーの株価はメイヤー氏就任の頃と比べてほぼ2倍にまで上昇しました。この株価上昇を機に、サード・ポイントは保有するヤフー株を同社に買い戻させ、6億ドル以上の利益を上げたとされています。

 

 

ヘッジファンド激突!ハーバライフを巡る対立

次に、栄養補助食品などを手掛ける米ハーバライフ社の事例を見てみましょう。

 

サード・ポイントは、2013年1月、ハーバライフ株の8.2%を取得し、同社の大株主に躍り出ました。この投資の背景には、著名アクティビスト投資家のアックマン氏率いるパーシング・スクエアが深く関わっています。

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実を言えば、サード・ポイントが投資する直前の2012年12月、パーシング・スクエアはハーバライフ株の空売りを仕掛けていました。アックマン氏はハーバライフの販売手法を「マルチ商法」だと批判しており、ハーバライフ株が下落すると考えていたからです。加えて、メディアなどを通じて、他の投資家に対しても盛んにハーバライフ株を空売りするよう勧めていました。その結果、一時40ドルを超えていたハーバライフの株価は、24ドル台まで下落する場面もみられました。

 

しかし、このハーバライフ株の急落後、サード・ポイントが同株の買い手として対抗するようになると状況が一変します。“売り” のパーシング・スクエアと “買い” のサード・ポイントが激突する、という構図になったのです。こうしてサード・ポイントが登場した後、ローブ氏とアックマン氏の双方が、メディアなどあらゆる手段を使って各自の主張を激しくぶつけ合う事態に発展しました。その上、同じく著名アクティビストのカール・アイカーン氏も、この騒動に“買い”のポジションで参戦するまでに至りました。

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結果として、ハーバライフの株価が持ち直した2013年4月、サード・ポイントはハーバライフ株を売り抜けることに成功しました。2億ドル前後の投資額から5,000万ドル以上の利益を上げた、と考えられています。ハーバライフ株が持ち直した理由として、ハーバライフが米国以外にも広く事業展開しており、アックマン氏の空売りやメディア戦略の影響力が限定的だったことなどが挙げられます。おそらく、ローブ氏はハーバライフが窮地に陥るシナリオはないと考え、パーシング・スクエアの空売りを好機として割安になったハーバライフ株に投資したものと推測されます。

 

余談ですが、2016年6月現在、アックマン氏とアイカーン氏によるハーバライフ株への投資は依然として決着のつかない状態とされています。今後とも、この著名アクティビスト同士の対立がどのような結末を迎えるのか注目されます。

 

 

アクティビストとしてソニーを変えた

サード・ポイントは、2013年5月、ソニーの株式にも投資を行っています。ソニーの映画・音楽事業などエンターテインメント部門を分社化させ、米国で株式上場させようとしたためです。

 

当時、ソニーはエンターテインメント部門が好調だった一方、主力の液晶テレビやパソコンなどエレクトロニクス部門は赤字が続いている状況でした。ローブ氏はこの不均衡な経営状態に注目し、エンターテインメント部門のみが独立すれば株式市場で高く評価されると予測しました。しかし、ソニーの経営陣はこのローブ氏の提案を拒否し、ローブ氏がソニー株を保有して以降、1年以上の対立が続きます。

 

最終的に、エンターテインメント部門の分社化は実現しませんでしたが、サード・ポイントの経営圧力により、ソニーの経営陣は事業の再編など一定の改革に本格的に取り組まざるを得なくなりました。この改革が功を奏し、サード・ポイントはピーク時に7%程度保有していたソニー株の売却により、約20%の利益を得たと言われています。

 

ヘッジファンドが企業を改革し、高い利益を上げた好例と言えるでしょう。

 

 

Third Pointの現在

サード・ポイントは、上記で挙げたソニーやセブン&アイ・ホールディングス以外にも、多数の日本企業に投資を行っています。その投資先の一つが、工作機械のNC(数値制御)装置で世界首位のファナックです。サード・ポイントからの提案をきっかけに、ファナックは配当性向を2倍に引き上げるなど株主還元策の強化に舵を切っています。

 

このファナックへの投資のように、サード・ポイントは現在も日米多数の企業に投資し、アクティビストとして戦略を練っていると考えられます。今後とも、ローブ氏率いるサード・ポイントに注目したいところです。

 

 

まとめ

サード・ポイントは日本企業を主要な投資対象の一つとしているため、その動向は日本国内の投資家にも大きく影響する可能性があります。やはりヘッジファンドの存在は見過ごせないものがあり、特にアクティビストファンドともなると株価への影響も甚大です。今後ともサード・ポイントに関する報道に注意する必要があると考えられます。

 

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片桐 峻

投資家、ファンドマネージャー。
日本にいる時は、時間を見つけてブログの読者さんとお茶しています。
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