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2016年11月22日

【投資関連訴訟】東宝不動産事件

 

サマリー

・東宝不動産事件とは、東宝による東宝不動産株の全部取得に対して、一部の株主が訴訟を起こした事件をいう

・訴訟において、東宝不動産株の公正な買取価格はいくらなのかという点で争われた

・地裁と高裁で判断が分かれ、最高裁の判決を待っているが、少数株主の権利が守られるか注目を集めている。

 

 

東宝不動産事件とは?

2013年、東宝(9602)とその子会社の東宝不動産が、東宝不動産の一部の株主と対立する事件が起こりました。

 

事件の発端は、2013年5月24日開催の東宝不動産の株主総会において、親会社の東宝が東宝不動産の株式を全部取得する議案が可決されたことに始まります。東宝不動産の株が東宝によって全部買い取られるということは、東宝不動産の株主は強制的に持株を手放さなければならなくなることを意味します。

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この強制的な株式買い取りに反発した東宝不動産の一部の株主が、裁判所に対して東宝不動産株の適正な買取価格の決定を求める申立てを行いました。「買取価格を引き上げるべきだ」と株主側が求めたためです。東宝の提示した買取価格は1株735円だったのに対し、株主の要求する買取価格は1株2,400円以上であり、両者の意見の隔たりは著しいものでした。

 

以上の経緯により、株式の全部取得が議決された場合、取得対象となる東宝不動産株の公正な買取価格は一体いくらなのかという点が裁判で争われることになりました。この東宝不動産の株式に関する一連の出来事は、「東宝不動産事件」などと呼ばれています。

 

 

株式の買取価格をどのように決めればよいのか

株式の買取価格が高ければ、売却する側の株主にとって有利になる一方、買取価格が低ければ、買取する側の会社にとって有利になります。このような対立が東宝側と株主側の間にあるため、公平な第三者としての裁判所が双方の主張を審査した後、“適正な”買取価格の決定を行うことになります。

以下では、東宝不動産株の買取価格について、双方の主張内容をそれぞれ見てみましょう。

 

■ 東宝側の主張内容

買取価格735円を主張する東宝は、この買取価格を公正な金額としました。根拠として、この金額を決定するプロセスは、過去の株式全部取得に関する裁判例によって認められた手法と同様のものだったという点を挙げています。

株式の全部取得時における買取価格の決定プロセスについて、日本で最初に司法判断が下されたのが「レックス事件」です。東宝不動産事件と同様、レックス事件も、株式の全部取得において会社側の提示した買取価格が公正なものか争われた事案でした。レックス事件における会社側の提示した買取価格は1株23万円でしたが、この金額が妥当かという点が争点になりました。

レックス事件の司法判断によると、公正な買取価格とは、会社側が株式の全部取得を公表した日における株式の客観的価値に加えて、その公表後の株価上昇に対する期待を考慮した金額とされています。株式が強制的に買い取られる以上、「株式の全部取得の公表後に予想される株価上昇分まで、株主に補償すべきだ」という考えが根底にあるものと考えられます。

具体的に、レックス事件において、株式の全部取得の公表日における株式の客観的価値は、公表日6か月前から公表日までの終値平均の約28万円と認められました。加えて、買取後の株価上昇に対する期待を考慮した上で、公正な買取価格は、株式の客観的価値(約28万円)に20%のプレミアムを加算した約34万円と認められる結果となりました。当初、会社側の提示していた買取価格23万円の約1.48倍とされたことになります。

このレックス事件における買取価格の決定プロセスが、会社側による東宝不動産株の買取価格の決定についても採用されていると見られます。東宝不動産株の全部取得の公表日(2013年1月8日)における株式の客観的価値は、公表日6か月前から公表日までの終値平均の442円と考えられます。この終値平均を前提とすると、会社側の提示する買取価格735円は、株式の客観的価値に60%以上のプレミアムを加えたものになります。そのため、東宝側は価格735円を公正な買取金額としているのです。

 

■ 株主側の主張

一方、株主側は、株式の買取価格の決定方法として、東宝不動産の純資産額に時価評価を加える評価法を用いるべきだと主張しました。東宝不動産は保有する土地や建物の含み益を抱えており、その含み益を株式の買取価格に反映させるべきだと株主側は考えたのです。

東宝不動産の有価証券報告書によると、東宝不動産株1株あたりの純資産額は約600円になります。その1株あたりの純資産額に含み益を加えると、東宝不動産株の買取価格は2,400円とするのが適正であると株主側は要求しています。

 

このように、東宝側と株主側の主張は、その根拠となる株式の評価方法が全く異なるため、大きな相違が見られることになりました。

 

 

東宝不動産株に関する裁判所の判断

東京地裁は2015年3月に買取価格を当初の735円より100円引き上げた835円とする判決を出しました。しかし、この判決に対しては双方が不服とし、高等裁判所に抗告されました。

その結果、2016年3月、東京高裁は東宝不動産株について買取価格を735円とする決定を下しました。その理由として、東宝不動産の純資産額が市場株価に適切に反映されていたと考えられることや、買取価格の決定については市場株価を基準に行うのが一般的であることなどが挙げられています。

この判決に対しては株主側が不服として抗告し、現在最高裁にて以前として係争中です。判決の行方はまだわかりませんが日本の株式市場において少数株主の権利がどのように扱われるか注目されています。

 

 

まとめ

今後とも、株主側と会社側の対立や紛争が訴訟に発展するケースは多々出てくるものと考えられ、そのようなケースに投資家として関わる可能性は決して低くないとも考えられます。特に訴訟の背景にヘッジファンドなどが関係している場合も少なくなく、ファンドに投資している人にとっては知らず知らずのうちに間接的に関係を持っている場合もあります。投資関連の訴訟についても報道などをチェックするといいかもしれません。

 

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片桐 峻

投資家、ファンドマネージャー。
日本にいる時は、時間を見つけてブログの読者さんとお茶しています。
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