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2016年09月29日

たった一言でアップルの時価総額を2兆円増やした「乗っ取り屋」Carl Icahn

 

サマリー

・アイカーン氏は米国有数のアクティビスト投資家の一人であり、「企業乗っ取り屋」とも呼ばれている

・アイカーン氏の代表的な投資先として、アップル、モトローラ、デルなど多数の超有名企業が挙げられる

・アイカーン氏の投資戦略には、自社株買いの要求や事業売却による経営効率化などがある

 

 

米国有数のアクティビスト投資家、カール・アイカーン

カール・アイカーン(Carl Icahn)氏は、米ヘッジファンド運用会社アイカーン・エンタープライジズ(IEP)の創業者であり、米国では大変著名なアクティビスト投資家の一人です。ブルームバーグによると、2016年5月現在、アイカーン氏の個人資産は194億ドル、日本円にして約2兆1,500億円(2016年5月30日時点の為替:ドル111円換算)にも上ります。また、世界の億万長者の中で、アイカーン氏は資産総額第36位にランクされています。

 

アイカーン氏は「企業乗っ取り屋」とも呼ばれており、企業の経営陣との争いをいとわず、株主としての要求を強引に主張することでも有名です。今回は、アイカーン氏の行った数々の投資の中から代表的なものについて見てみましょう。

 

 

ツイート1つで急騰したアップル株

2013年、アイカーン氏は数十億ドル分のアップル株を買い集め、アップルのティム・クックCEOに対して自社株買いを実施するよう強く要請しました。アップルが1,500億ドル以上もの手元資金を有していることに注目し、その資金を原資に株主還元を強化させようとしたためです。

 

このアップル株の自社株買いに関連して、アイカーン氏の影響力の大きさを示す出来事があります。アイカーン氏がアップルの経営について以下のツイートを行っただけで、アップル株が大きく値上がりしたのです。

 

“Had a nice conversation with Tim Cook today. Discussed my opinion that a larger buyback should be done now. We plan to speak again shortly.” (@Carl_C_Icahn)

「今日、ティム・クック氏と良い話し合いができた。更に規模の大きい自社株買いを今、実施すべきだという私の提案について議論した。近々また話す予定だ。」

 

このツイートの翌日、アップルの株価はツイート直前と比較して5%強上昇し、アップルの時価総額は短期間に約2兆円も増加しました。アイカーン氏が経営圧力をかけるというだけで、対象となる企業の株価に多大な影響を及ぼし得ることが示された出来事だったといえます。

 

このようなアイカーン氏の一連の要求がきっかけとなり、アップルは、2012年から2015年末までの間、900億ドル規模の自社株買いを実施することを決定しました。この規模はその後も増額され、アップルは2017年3月末までに累計1,400億ドルという史上最大規模の自社株買いを行う予定になっています。

 

このアップルの一件は、著名なアクティビスト投資家がいかに甚大な影響力を持ち得るかを知る格好のケースになったと考えられます。

 

 

モトローラを巡る買収が巨額の利益に

アイカーン氏の投資戦略の一つとして、株価の低迷した企業に注目し多数の議決権を握った上で、事業売却などを行い企業価値を向上させる手法が挙げられます。このような手法が用いられたのが、かつて世界のトップ企業の一つだったモトローラへの投資です。

 

モトローラは米国を代表する通信機器メーカーでした。しかし、2007年頃から、携帯電話の技術革新に乗り遅れた結果、ノキアやアップルに市場シェアを奪われ、株価の低迷に見舞われることになりました。

 

苦境に陥ったモトローラに目をつけたアイカーン氏は、モトローラ株を買い集めて大株主となり、同社に対して経営の改善とともにアイカーン氏による取締役の推薦を受け入れるよう迫りました。その要求と同時に、アイカーン氏はモトローラに対して委任状争奪戦と経営情報の提出を求める訴訟を起こし、経営圧力を高めていきました。その結果、モトローラは、アイカーン氏の推薦する取締役2人を受け入れることに決め、アイカーン氏の提案する経営方針を尊重するようになりました。

 

以上のような働きかけを通じて、アイカーン氏はモトローラの経営陣に対する影響力を強め、経営効率化を目的としてモトローラの携帯電話事業を分社化させることに成功しました。こうして分社化されたモトローラ・モビリティは、その後、グーグルにより125億ドルもの巨額資金で買収されることになりました。このグーグルによる大型買収により、アイカーン氏は少なくとも4億ドル以上の利益を得たとされています。

 

このようなモトローラを巡るアイカーン氏の戦略は、まさに理想的なアクティビスト投資だったといえるでしょう。

 

 

経営権が奪えないときは、株式を上手く売却する

アイカーン氏は、企業価値と株価が乖離している企業を常に探しており、そのような企業を見つければ即座に投資を行い、企業経営に割って入る機会を伺っているとみられます。しかし、アクティビストとして必ずしも経営権を握ることができるとは限りません。そこで、アイカーン氏は経営参加のチャンスを探ると共に、そのチャンスがないと分かれば好条件での株式売却を狙う、という二段構えの投資手法を採っていると考えられています。

 

上記のような投資撤退時の戦略が垣間見えたのが、米パソコン大手のデルに対する投資です。

 

2013年、デルはMBO(経営陣による自社の買収・非上場化)を計画しましたが、アイカーン氏はその方針に反対し、MBOへの対抗策を打ち出してデルの経営陣と買収合戦を展開しました。しかし、結果として、アイカーン氏はデルの買収を撤回し、デルのMBO阻止を断念することを表明しました。

 

このデルの買収撤回は一見、アイカーン氏の敗北とみなされていますが、実際のところ、アイカーン氏は6か月間程度のデルへの投資で約7,000万ドルの収益を得たとされています。この収益を得た一因として、アイカーン氏とデル経営陣との買収合戦により、MBOにおけるデル株の買取価格が引き上げられたことが作用したものと考えられます。

 

以上のような経緯からすると、アイカーン氏は、デル買収が失敗に終わった場合においても、当初からデル株を有利な価格で売却するシナリオを想定していたのではないかと予想されます。

 

 

カール・アイカーン氏の現在

上記の他にも、アイカーン氏は、タイム・ワーナー、AIG、ペイパル、ゼロックス、ネットフリックス、ヤフーなど多数の企業にアクティビストとして投資した実績があります。また、最近では、アイカーン氏は、米タイヤ販売大手ペップ・ボーイズを巡ってブリヂストンと買収合戦を争い、アイカーン氏がペップ・ボーイズの買収に成功しています。

 

80歳の高齢となったアイカーン氏ですが、アクティビストとして今も変わらず活躍し続けていますから、今後ともアイカーン氏の動向から目が離せません。

 

 

まとめ

ヘッジファンドなど投資業界に関する理解を深めるためには、著名な投資家であるアイカーン氏などの動向をチェックしておいた方がいいでしょう。今後とも、アイカーン氏のような著名なアクティビスト投資家の戦略や手法には是非注目していただきたいところです。

 

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片桐 峻

投資家、ファンドマネージャー。
日本にいる時は、時間を見つけてブログの読者さんとお茶しています。
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