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2016年01月29日

欧州危機再燃!? イギリスのEU離脱リスク

 

サマリー

・イギリスはEU離脱の是非を問う国民投票を2016年6月23日に行うことが決定

・背景としては、そもそもEUは人の移動の自由を基礎に置く共同体だが、移民問題をきっかけにイギリスのEUに対する不満が高まったことが原因

・仮にEU離脱が決まった場合、円高・株安など欧州債務危機が再燃するおそれがある

 

 

イギリスはEU離脱の是非を問う国民投票を実施する

イギリスのキャメロン首相は、イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票を2016年6月23日に行う方針を表明しました。これを受けて、ニュースなどで目にする機会が増えている言葉が「ブリグジット(Brexit)」。これは、Britain(イギリス)+Exit(離脱)の2つの単語でつくられた造語です。

 

しかし、なぜイギリスのEU離脱が議論されるに至ったのでしょうか。その最大の理由は、移民増加による雇用の圧迫や財政悪化に対する不満がイギリス国内にあるからです。

 

以下で、詳しく解説します。

 

 

そもそもEUは何のためにあるのか?

EU(European Union)は「欧州連合」の略語で、ヨーロッパ各国の政治的・経済的統合を目指すものです。ヨーロッパ全域で人、モノ、サービス、資本の移動を自由化することがEUの目標です。EUの現加盟国は、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、ベルギー、オランダ、スペイン、ギリシャなど全28ヶ国。このうちEUの単一通貨ユーロを使用する国は19ヶ国で、EU加盟国のすべてがユーロを使用しているわけではありません。

 

EU加盟の主なメリットは、以下の点にあります。

・通貨の統一により、為替の影響を受けることなく消費や投資を行える

・加盟国間の入国審査が撤廃されているため、EU内を人が自由に移動できる(この入国審査撤廃の取り決めを「シェンゲン協定」という)

・関税が相互撤廃されているため、貿易に有利

要するに、単一通貨ユーロやシェンゲン協定などのEUのルールのおかげで、EU域内での消費や投資が活発になり、経済活動が活性化されます。

 

しかし、イギリスはユーロを使用しておらず、通貨はポンドです。また、イギリスはシェンゲン協定に加盟していないため、EU加盟国-イギリス間を移動する場合は入国審査が必要です。元々イギリスはEUから一定の距離を取っており、イギリスにとってEUの主な経済的メリットは貿易の関税撤廃のみです。

 

このように、イギリスはEUから半ば独立した地位を保っていました。そのイギリスがEU離脱を真剣に議論するきっかけになったのは、移民問題です。イギリスの総人口は約6,300万人(2011年)ですが、イギリスの行政機関によると、イギリスの人口は2037年までに約960万人増加すると予想されています。そのうち、移民による人口増加は400万人以上に上るとみられています。この移民増加はイギリス国内の雇用を圧迫し、イギリス人労働者の失業を増大させる可能性があります。また、移民流入により低所得者が増加し、社会保障費が増大して財政を悪化させる懸念もあります。EUのルールにより、EU加盟国は移民に対して平等に社会保障を行わねばならないと決まっているからです。この移民問題に対して、イギリス国民の一部はEU離脱によって移民制限を行うべきだと主張しています。

 

 

もしイギリスのEU離脱が決まったら?

ロイター通信の2016年3月23日の記事が報じた世論調査によると、イギリスのEU離脱賛成派は43%、反対派は41%と拮抗した状態です。このうち、賛成派がEU離脱を支持する理由の1つとして、2015年11月13日パリ同時多発テロ及び2016年3月22日のベルギー・ブリュッセル連続爆破テロの影響があったとみられます。今のままEUに加盟し続けると、経済的なメリットが少ないにも関わらず、加盟国として移民を受け入れ続けなければならないため、イギリス国内にテロリストが入り込むリスクが高まり続けます。加えて、パリ及びベルギーの悲惨なテロを目の当たりにしたため、イギリスのEU離脱賛成派がわずかながら反対派を上回ったと考えられています。現時点では、イギリスのEU離脱の可能性は決して低くないと考えられています。

 

仮にイギリスのEU離脱が決まった場合、G20(20ヶ国財務相・中央銀行総裁会議)は「今年最大の経済危機のひとつ」になる可能性があるとしています。さらに、ポンド安やロンドンなどの地価下落、イギリス国債の格付け引き下げが生じ、イギリス経済に深刻なダメージを与えると予想する専門家もいます。

 

 

日本への影響は?株・為替など市場への影響はどうなる?

イギリスのEU離脱が現実化した場合、ポンドとユーロが売られ、日本に円高をもたらす恐れがあります。また、欧州の株式市場の混乱が米国や日本の株式市場に波及する可能性があります。2009年から2010年にかけて発生した欧州債務危機が再燃するリスクも否定できません。

 

過去のデータを見ると、欧州債務危機の始まった2009年10月から1年程度で、ユーロは2009年の高値から20~30%下落、ドルも2009年高値から10~15%下落しました。また、この同時期、日経平均株価は2009年9月から同年11月にかけて10~15%下落しました。2016年6月の投票でEU離脱が決まった場合、一時的に、日本株の大きな値下がりや、為替が大きく変動するリスクは否めません。

 

 

まとめ

キャメロン首相は、イギリス経済への悪影響を懸念し、EU残留を呼びかけています。日本の報道ではあまり大きく取り上げられていない印象がありますが、2016年6月のイギリスの国民投票まで、イギリスの世論の動向に注目する必要があります。残り約2か月半、海外メディアなどで報じられるイギリスの世論調査や政治の動きに意識を向けて頂きたいと思います。