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2016年04月13日

「パナマ文書」が暴露した各国政治家の“資産隠し”問題

 

サマリー

・「パナマ文書」によって、各国指導者や著名人が海外に資産隠しを行っていたことが発覚

・タックスヘイブン自体は違法ではないが、タックスヘイブンを利用した脱税や汚職が各国で疑われている

・「パナマ文書」は英キャメロン政権にも打撃。イギリスのEU離脱リスクを高める恐れも

PANAMA PAPERS

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)ウェブサイトより

 

今、世界各国で大きなスキャンダルとなっている「パナマ文書」。

ここでは、この「パナマ文書」について解説します。

 

 

「パナマ文書」とは何か?

「パナマ文書」とは、パナマの法律事務所から流出した過去40年分の膨大な内部文書を指します。この文書によって、各国の指導者や著名人がタックスヘイブン(租税回避地)を利用して税金逃れを行っていた事実が明らかになりました。租税回避行為を行っていたのは、イギリスのキャメロン首相、シリアのアサド大統領、ロシアのプーチン大統領の側近、中国の習近平国家主席の親族など多数に上ります。国民に税金を課する立場にある各国の指導者たちが、自己や親族などの私財を海外に隠して税金逃れを行っている・・・このような行為が汚職に当たるのではないか、と各国で怒りの声が上がっているのです。

 

「パナマ文書」は、世界各国の記者で構成される国際調査報道ジャーナリスト連合(The International Consortium of Investigative Journalists=ICIJ)のウェブサイト上で公表されたのをきっかけに、各国で大きく報じられました。上記政治家以外に、脱税、マネーロンダリング(資金洗浄)、麻薬取引などを行っているとされる犯罪組織の存在も「パナマ文書」から窺われるとみられています。また、日本に限ると、「パナマ文書」には日本国内を住所とする個人や企業の情報が400項目ほど含まれていた、とされています。その一例が、警備大手のセコム創業者や親族の情報です。「パナマ文書」によると、セコム創業者と親族の保有する約700億円もの価値のセコム株式が、1990年代、タックスヘイブンに移転されていたことがわかっています。日本の相続税や贈与税を免れようとしたのではないか、と考えられています。

 

 

タックスヘイブンは違法か

そもそもタックスヘイブンとは、法人税などの税金が免除されたり、極端に低く設定されたりしている国や地域をいいます。例えば、パナマ、モナコ、英領バージン諸島やケイマン諸島などです。小国ばかりですが、これらの国々が各国の富豪や大企業などの資本をタックスヘイブンによって呼び込む政策を取っています。

 

タックスヘイブンを利用することが直接、犯罪とみなされるわけではありません。「パナマ文書」の流出元となったパナマの法律事務所は、「タックスヘイブンに企業設立などを行うことは合法的な活動」と主張しています。このようなタックスヘイブンに隠された資金は、2010年末の推計によると、世界で1,700兆円あると予想されています。今、問題とされているのは、タックスヘイブンそのものというよりも、タックスヘイブンを利用して政治家などが脱税や汚職を行っていたのではないか、という点だと言えるでしょう。

 

 

キャメロン窮地でEU離脱?

「パナマ文書」の影響は、株式市場などにも及ぶのでしょうか。今のところ、直接的な影響はあまり見当たりませんが、タックスヘイブンを利用していた政治家への批判や抗議がきっかけとなり、各国の経済政策などに影響を及ぼす恐れがあります。

 

懸念の一つが、以前、当サイトの記事(欧州危機再燃!?イギリスのEU離脱リスク)でも取り上げた「イギリスのEU離脱」の可能性を高めるのではないか、という点です。

 

イギリスは2016年6月23日、EU離脱の是非を問う国民投票を行うことになっています。仮にEU離脱が決まった場合、欧州経済に対する不確実性が高まり、世界経済や金融市場に悪影響を与えるのではないかと危惧されています。この国民投票に向けて、EU残留を呼びかけていたのがイギリスのキャメロン首相です。しかし、「パナマ文書」に関する今回の騒動を受けて、キャメロン首相は国民の強い批判にさらされています。毎日新聞の記事(キャメロン氏評価「最低」…政権に打撃 パナマ文書)によると、イギリスの世論調査では、キャメロン首相に対する評価は昨年5月以来の最低を記録した、とされています。「パナマ文書」に関するキャメロン首相への批判が長引けば、EU離脱の是非を問う国民投票の結果にも何らかの影響を及ぼす恐れがあります。

 

まとめ

今後、「パナマ文書」の影響が各国の政策や金融市場に対してどれほど及ぶかは不透明です。現時点では、キャメロン政権への打撃を通じて、「EU残留か離脱か」を決めるイギリスの国民投票がどのように影響されるか、という点が最大の焦点になるかもしれません。今後とも、各国に対する「パナマ文書」の影響を注視する必要があるでしょう。

 

 

片桐 峻

投資家、ファンドマネージャー。
日本にいる時は、時間を見つけてブログの読者さんとお茶しています。
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