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2016年04月07日

日本の株安・円高の裏に外国人投資家あり!?

 

サマリー

・2015年8月から始まった日本株下落の背景には、外国人投資家の強い売り姿勢がある

・株安とほぼ同時に進む円高は、「円キャリー取引」の解消が一因と考えられる

・「投資部門別売買状況」などを参考に、外国人投資家の動向を把握して投資に生かそう

 

今日の日本株の下落や円高は、外国人投資家の動向から考えると理解しやすいのではないでしょうか。日本の金融市場における外国人投資家の動向について見てみましょう。

 

 

日本株は「ブラックマンデー」以来の売り越し

2015年度は、外国人投資家による日本株の売り越し金額が約5.1兆円に上りました。この売り越し額は、ニューヨーク株式市場で起きた大暴落を指す「暗黒の月曜日(ブラックマンデー)」のあった1987年度に次いで過去2番目の金額です。特に、2015年9月の外国人投資家の月間売り越し額は約2兆5,700億円で、ブラックマンデーの起こった1987年10月を抜く史上最高を記録。この売り越しは、2015年8月に起こった中国発の世界同時株安の影響を受けてのことだと考えられています。また、2016年の年初からも、外国人投資家は12週連続の日本株売り越しを行っており、一貫して売り姿勢を続けています。2015年8月初めに2万円台を付けていた日経平均株価は、今月4月には1万5,000円台まで急落しており、この急落の主な原因は外国人投資家の売り越しにあると言えるでしょう。

 

そもそも日本の株式市場における外国人投資家の売買シェアは6割程度を占め、日本株の値動きに多大な影響を及ぼします。具体的には、海外のヘッジファンド、年金基金、産油国や中国系の政府ファンドなどが日本株の売買を行っていると考えられています。このような外国人投資家たちが、「日銀の金融政策にも限界が来ており、アベノミクス相場の終わりが間近ではないのか」「米国の利上げ姿勢や中国の景気減速懸念など、世界の金融市場に陰りが見えつつある」などといった思惑により、日本株の利益確定売りや資金の引き上げに走っていると見られます。

 

この外国人投資家の日本株売り越しの流れは、いつまで続くのでしょうか。アベノミクスの開始された2012年末頃から2015年末までの外国人投資家の日本株買い越し額は、約17兆円との試算が出ています。この試算から考えると、2015年度の外国人投資家の売り越し金額が約5兆円ですから、アベノミクス以降の外国人投資家の買い越し額は依然として12兆円程度残っていることになります。「この約12兆円分の日本株がこれからどのように動くのか」という点が、今後の日本株市場にとって重要になると考えられます。

 

 

円を買っているのも外国人投資家?

日本株の下落と同様に、2016年初めから円高も進行しています。2016年初めには1ドル120円台だった為替が、今月(2016年4月)には一時1ドル107円台を付ける場面も見受けられました。この円高の背景にも、外国人投資家の動向が大きく関わっていると考えられます。円高の一因として、外国人投資家による「円キャリー取引」の巻き戻しが起こっている可能性があるのです。

 

「円キャリー取引」とは、低金利の日本円で資金を借り入れ、円を外国通貨に換えた後、高利回りの見込める海外資産で運用することを指します。ほぼゼロ金利の円を利用することで資金調達コストを下げ、最終的な投資成果を向上させる狙いがあります。円キャリー取引が行われる場合、必然的に円売りが増えるため、円安が進行する傾向にあります。反対に、円キャリー取引が解消される場合、借りていた円を買い戻して返済する必要があるため、円高が進行する傾向にあります。

 

この円キャリー取引に関する報道によると、2014年から2015年にかけて、海外の金融機関による円キャリー取引が活況になっていたことが窺えます(ブルームバーグ「【クレジット市場】在日外銀が黒田氏支える、円キャリー6年ぶり活況」)。世界経済が好調な時期は、円キャリー取引が活発になって円安になりやすいと言えますが、一方、円キャリー取引が好況期に拡大し過ぎると、その巻き戻しの影響も甚大になる可能性があります。ひとたび世界経済の減速懸念などが広がると、円キャリー取引の解消により、円高が急激に進むリスクがあるのです。

 

一般的に、景気後退期に円高になる理由として「円が安全資産だから」と言われることがありますが、それ以上に「円キャリー取引の巻き戻し」も円高に大きく影響している可能性があるのではないかと考えられます。とすると、世界の金融市場の混乱によりリスクオフ(株式などハイリスクの資産を避けること)の局面になった場合、外国人投資家の円キャリー取引解消が円高を引き起こすのは必然と考えることもできます。

 

 

まとめ

外国人投資家の動向は、日本の株式市場や円高・円安のトレンドを予測する上で非常に重要と考えられます。日本取引所グループの発表する日本株の「投資部門別売買状況」などを参考にして、常に外国人投資家の動向をチェックすると良いでしょう。

 

ご参考

・投資部門別売買状況(日本取引所グループ)- www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/investor-type/

 

 

 

片桐 峻

投資家、ファンドマネージャー。
日本にいる時は、時間を見つけてブログの読者さんとお茶しています。
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