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2016年05月31日

タックスヘイブンは違法なのか? – 適法と違法の境界線 –

 

サマリー

・タックスヘイブンとは、所得税や法人税などの税率がゼロ又は極端に低い国や地域をいう

・日本では、「タックスヘイブン対策税制」違反や犯罪行為を行わない限り、タックスヘイブンの利用は適法

・タックスヘイブン自体よりも、それを隠れ蓑にした「脱税」や「マネーロンダリング」の根絶が求められる

 

当サイトで以前取り上げた「パナマ文書」(参照|「パナマ文書」が暴露した各国政治家の“資産隠し”問題)をきっかけとして、日本でも話題になっているのが「タックスヘイブン(租税回避地)」です。当記事では、「タックスヘイブン」について解説します。

 

 

そもそもタックスヘイブンとは?

タックスヘイブン(tax haven)とは、所得税や法人税などの税率がゼロ又は極端に低い国や地域をいいます。パナマ、モナコ、英領バージン諸島やケイマン諸島などが代表的なタックスヘイブンに当たります。このタックスヘイブンを利用して、各国の富豪や企業などが「節税」を行っています。例えば、ケイマン諸島における日本の資金は、2015年12月末時点で5,220億ドル、日本円で約63兆円(2015年12月末時点の為替1ドル120円換算)にも上ると言われています(毎日新聞「租税回避地 日本の資金63兆円 ケイマン諸島に」)。

 

なお、最近の報道では、「オフショア取引」という言葉が使われることがあります。「オフショア(offshore)」とは、広義には「海外」という意味ですが、金融の分野では「税制などの優遇措置が与えられる海外金融市場」を指すことがあります。「オフショア取引」はタックスヘイブンに向けた資金の移転を意味することがありますが、単に「国内以外の金融取引」を指すこともあります。「オフショア取引」と言っても、常にタックスヘイブンに関する取引を意味するわけではないことに注意が必要です。

 

 

タックスヘイブンは違法?

タックスヘイブンを利用すること自体は違法ではありません。一般的に、企業が海外に子会社を設立したり、個人が海外に送金したりすることは法律的に全く問題のない行為ですので、タックスヘイブンに対する資金の移転や子会社設立も“原則として”合法になります。

 

しかし、本来日本国内で事業が行われていれば課税されるべき資金が、タックスヘイブンに移されることによって課税できないのは国益を損なうことになってしまいますので、日本では「タックスヘイブン対策税制」が定められています。「タックスヘイブン対策税制」とは、不正な租税回避行為を防止するためのものであり、タックスヘイブンの法人を所有していても、それが実質的に日本の居住者・法人によるものだった場合、タックスヘイブンの法人の所得も国内での所得とみなして課税する制度です。タックスヘイブン対策税制は、「タックスヘイブンに所在地があり、かつ、日本の居住者・法人が発行済株式の50%超を保有している外国法人」の株主の一部を適用対象としています。このタックスヘイブン対策税制によって、タックスヘイブンを利用した租税回避行為の一部を禁止しているのです。

 

以上のように、タックスヘイブンを利用すること自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし、「タックスヘイブン対策税制」に反して不正な租税回避行為を行った場合は違法と判断されてしまいます。

 

言い換えれば、このタックスヘイブン対策税制の適用対象から外れた場合、タックスヘイブンの利用は合法的な「節税」とみなされます。タックスヘイブン対策税制に該当しなければ、タックスヘイブンの利用は原則通り適法となる、というわけです。例えば、タックスヘイブン対策税制が適用されないケースとして、「日本の非居住者又は外国法人が、タックスヘイブンの外国法人の株式50%超を保有している場合」などがあります。このような税制の「抜け穴」が利用されるため、タックスヘイブンの利用は依然として減少しないものと考えられます。

 

国や行政機関の本音から言えば、タックスヘイブンの利用を全面的に禁止したいところかもしれません。しかし、だからといってタックスヘイブンでの子会社設立などを全て禁止することは現実的でなく、現状では、租税回避行為の根絶は困難と考えられます。今後、税制改正によって「タックスヘイブン対策税制」の強化が行われる可能性はありますが、国際的なタックスヘイブン対策などが抜本的に行われない限り、タックスヘイブンの問題が解消されることはないかと予想されます。

 

 

脱税・マネーロンダリングこそが問題

ここまでは課税対象の資金が海外に流出してしまい国の税収が減ってしまうという話を中心にしてきましたが、タックスヘイブンの利用において、もう一つ懸念されるのが犯罪行為にあたる「脱税」です。

 

タックスヘイブンの利用が脱税に当たる具体例の一つは、次のようなケースです。

 

ある日本人の会社役員がタックスヘイブンの法人から多額の役員報酬を受け取っていましたが、会社役員は「数年間ずっと海外に居住している」との理由で、日本の税務署にその所得を申告していませんでした。居住地が海外であれば、日本に納税する義務がないためです。しかし、国税局は会社役員に対して約20億円の申告漏れを指摘し、罰則として加算税を課されました。国税局の調査により、実際には会社役員が日本を本拠地としていたことが判明したからです。このように、タックスヘイブンによる租税回避を意図しても、実態調査により脱税に当てはまると判断される場合があります。

 

実際の事例では、タックスヘイブンによる租税回避行為が適法な「節税」に当たるか、それとも違法な「脱税」に当たるか、明確に区別することは難しいケースが多いと考えられます。しかし、脱税に当たるとみなされた場合、加算税などの措置に加えて、場合によっては罰金・懲役など刑事罰を受ける可能性があります。このような重い罰則が課されるため、タックスヘイブンの利用が脱税に当たるかどうかが大きな問題になります。

 

 

加えて、タックスヘイブンの利用が問題視されるケースとして、「マネーロンダリング」が挙げられます。

 

マネーロンダリング(資金洗浄)とは、脱税、賄賂、麻薬取引などの犯罪によって得られた資金を隠匿する行為を意味します。資金源が発覚しないように、複数の金融機関に転々と資金移動させるなどして各国の捜査機関の摘発を免れる狙いがあります。

 

昨今、「パナマ文書」によって、各国の政治家などがタックスヘイブンを利用していた事実が発覚しました。今回、「パナマ文書」で問題視されているのは、タックスヘイブン自体というより、各国の政治家が賄賂や脱税などの汚職で得た資金をタックスヘイブンに送金していたのではないか、という点です。タックスヘイブンは基本的に秘密保護を厳格にしているため、透明性に欠ける面があり、タックスヘイブンが政治家によるマネーロンダリングの温床となっていた可能性が指摘されています。

 

一旦タックスヘイブンに資金が移されると、タックスヘイブンの法律に基づいた口座情報の開示が行われない限り、各国の行政機関等は資金の流れを捕捉できません。そして、タックスヘイブンの法律は概して厳格な守秘義務を規定しているため、口座の資金が明らかな犯罪資金であると証明できない限り、ほぼ口座情報の開示が認められることはありません。よって、タックスヘイブンは、資金の隠匿を行うマネーロンダリングの温床になりやすいとされているのです。「パナマ文書」で発覚した各国政治家の“隠し資産”も、賄賂や脱税によって得られた資金だった可能性があります。

 

以上からすると、根絶すべきはタックスヘイブンそのものというより、タックスヘイブンを悪用した「脱税」や「マネーロンダリング」だと言えるのではないでしょうか。タックスヘイブンは複雑な仕組みで理解の難しいところもありますが、昨今のタックスヘイブンに関する報道を理解するためには、その問題点を正確に把握する必要があるかと思われます。

 

 

まとめ

現状、タックスヘイブンによる租税回避行為については、「節税」と「脱税」の境界線は明確になっているとは言い難いと考えられます。しかし、「脱税」や「マネーロンダリング」などのタックスヘイブンの悪用は、犯罪の助長につながりかねない重大な問題です。

「タックスヘイブンの利用は全部違法なのでは?」といった誤解が見受けられることがありますが、当記事がタックスヘイブンの概要や問題点を正確に知る一助となれば幸いです。

 

 

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片桐 峻

投資家、ファンドマネージャー。
日本にいる時は、時間を見つけてブログの読者さんとお茶しています。
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