リーマンショック徹底解説 – 金融危機の裏側で稼いだ人とカモになった人とは
サマリー
・世界の金融市場に大ダメージを与えたリーマンショック
・大手の金融機関も多額の損失を被り経営破綻にまで追い込まれたところもあった
・しかし、その裏で保険会社などを「カモ」にしてしっかりと利益を上げたヘッジファンドや投資銀行があった
サブプライムローン問題とは
「サブプライムローン問題」「リーマンショック」「金融危機」などといった言葉を耳にしたことがある人も少なくないとは思いますが、その実情についてきちんと理解している方はどれほどいらっしゃるでしょうか。
ここではまず、その背景について、一体何が起こったのか。何が問題だったのかについて説明していきたいと思います。
2000年頃から「モーゲージ債」という債券(正確には証券化商品)がアメリカを中心に流行します。これは住宅ローンを元に債券を創り出すというもので、金融市場において爆発的に規模を拡大していきます。モーゲージ債という商品自体は、金融市場の拡大において一役買いますが、ここに「サブプライムローン」を組み合わせたことで状況は混迷していきます。
サブプライム(subprime)ローンとは、いわゆる“低所得者層”に向けた住宅ローンで、これらのローンは一般に債務不履行に陥る可能性が高いものです。通常はあまり積極的な貸し付けが行われるものではありませんが、2000年代はじめのアメリカでは住宅価格が高騰しており、サブプライム層に対しても積極的な貸し付けが行われていました。
また、通常、このサブプライムローンを元にしたモーゲージ債はあまり高い格付けが付くものではありませんが、これについてもCDO(債務担保証券)を駆使することにより、格付機関の評価を不正確なものにし、AAA(最高ランク)の格を獲得します。
こうして、内容が粗悪な債券を高い格付けで売りさばくことにより、当時の金融市場は急速に拡大します。
しかし、この債券が後に債務不履行を起こし、良い債券だと“勘違いをして”安く大量に購入した層が多額の損失を被ります。この「多額の損失を被った層」にはリーマン・ブラザーズやAIGといった世界的大手の金融機関も含まれており、これらの企業が数千億円規模の赤字を計上した結果、経営破綻に追い込まれ、それに連鎖して多くの金融機関が合わせて破綻することとなりました。
これが、サブプライムローン問題に端を発した金融危機、通称“リーマンショック”の概要になります。
【参考ページ】サブプライムローンの裏側にあったそもそもの仕組み ー 金融危機に備えて知っておくべきモーゲージ債とは
大恐慌の裏で稼いだ人たち – CDS・CDOを活用して儲けた方法とは
リーマンショックではサブプライムローンの質の悪さをきちんと理解していなかった“数多くの”金融機関が損失を被ることとなりましたが、損を被った人(組織)がいる一方で、やはり巨額の富を得た人たちもいます。
しかし、サブプライムローンを元にしたモーゲージ債は「債券」に分類されるため“空売り”を簡単にすることができず、収益を上げることは容易ではありません。
では、どのようにして収益を上げることができたのでしょうか。ここではリーマンショックの裏で行われていた取引のからくりを解説していきたいと思います。
まず、ヘッジファンドなどの投資家の中で、モーゲージ債やそれからつくられるCDOの“価値の無さ”に気がついている人たちは、それらの債券に対するCDSを購入しました。
CDSとは、債券に対する保険のようなもので、例えば100万ドルの債券に対してプレミアム(保証料)を支払うことになります。例えば、年に2万ドル・10年間払い続けなければならなかったりしますが、これを払い続けることによって10年以内にその債券が債務不履行に陥った場合100万ドルを手にすることができます。
ここに目を付けた投資家は、格(ランク)の高さを逆手に取り、安いプレミアムで大量のCDSを購入します。
彼らは、しばらくの間プレミアムを払い続けたのちに、大量の債券の債務不履行と共に多額の保証金を受け取ることができました。
【参考ページ】サブプライムローン崩壊の裏側にあったCDSとは
しかし、この投資家に加えてさらに利益を上げた一部の投資銀行がありました。彼らは、多額のCDSを投資家に“売りつけ”ます。投資家たちは、モーゲージ債やそこから創り出されるCDOの質の悪さを理解している人たちですから、格(ランク)BBB相当のプレミアム(額面の2.5%程度)を支払う契約を結びます。
CDSを様々な投資家に売りつけた投資銀行は、今度は、このCDSの権利を別の組織に売りつけようと考えます。このCDSの権利を買った人たちは、その債券が債務不履行に陥った際に保障しなければなりませんが、プレミアム(保証金)を受け取ることができます。
債券の価値がわからず、格付け機関のランクを盲信し、債務不履行に陥るリスクを見誤った人たちは、このCDSの権利を喜んで購入します。彼らは「倒れるはずのない債券の保証を引き受けることで、プレミアムによって稼げる」と考えたのです。
しかも、投資銀行は、大量に販売したCDSを組み合わせて「合成CDO」をなるものを作成します。CDOを活用することによって、“BBB”だった(債券にかけられた)CDSが“AAA”になるのです。よって、投資銀行は“AAA”相当のプレミアム(額面の0.5%程度)を支払うことで、CDSの保証を保険会社になすりつけることに成功します。彼らは“保証”というリスクを持つことなく、投資家に売ったCDSのプレミアムと保険会社に売ったプレミアムの差額を受け取ることに成功するのです。
【参考ページ】リーマンショックを知るにはこれを知れ – 金融市場を必要以上に膨張させたCDOとは
このようにして、大量の保険を購入することで実質的に空売りに近しいことをした「投資家」と、ノーリスクでプレミアムの差額を受け取ることに成功した「投資銀行」、債券・CDSの持つリスクを正確に把握できず、すべてのリスクを一身に背負った「投資銀行」、という図式が出来上がりました。
ことの顛末は皆さんも知っている通りですが、中身が粗悪な債券のCDSの権利を大量に購入させられた保険会社は、債券が債務不履行に陥った際に、すべての負債を被ることになり、結果として経営破綻にまで追い込まれてしまいました。
まとめ
いかがだったでしょうか。リーマンショックの裏側で行われていた様々な金融取引について駆け足で説明しましたが、金融商品やその取引を取り巻く環境がいかに複雑であるかを理解していただけたかと思います。
ここでは保険会社を「カモ」、投資銀行・ヘッジファンドを「稼いだ側」の代表例として紹介しましたが、実際にはカモにされた投資銀行や投資家も多く存在します。リーマンショック・サブプライムローンの例を1つとってみるだけでも、投資の世界の奥の深さを味わっていただけたかと思います。
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