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2017年05月19日

増資・自社株買いとは?! 個人投資家はどうすべきなのか?!

 

サマリー

・増資・自社株買いとは、企業が、必要な資金量に応じて株式を発効したり買い戻したりする活動のこと

・増資や自社株買いによって、その株式の一株当たりの価値が変化するので注意が必要

・変化する株式の価値を見極めて正しく投資をするのは、個人投資家にとって簡単なことではない。それを充分に認識しよう

 

 

自社株買い・増資とは

株式を発効するというのは、本来、資金を調達するというのが目的になります。会社に対して資金を提供してくれる人達に対して、その証書として発効するのが株式です。

しかし、会社を運営していくうちに、自己資金だけで充分やっていけるようになることもあれば、逆に新規株式を発行することによって追加の資金を調達したいと思う場合もあります。このような場合に行われるのが、「自社株買い」や「増資」なのです。

 

「増資」とは、新たな資金を調達する為に株式を新たに発行することを言い、主に、「公募増資」「第三者割当増資」の2つの種類があります。

「公募増資」とは新株を発行して一般の投資家に市場で自由に購入してもらう形式の増資であり、「第三者割当増資」とは既存株主以外の特定の第三者のみから資金調達する方法のことで、一般の投資家は新規に発行される株を買う事は出来ません。

 

一方、「自社株買い」とは、その名の通り、自社の株式を買うことです。株というのは、発行する企業側の立場にたってみれば、株式発行によって資金を調達できる反面、株主に配当を払わないといけない、経営をするに当たって常に株主を意識する必要がある、IR情報の公開/説明など上場の維持コストがかかる、買収のリスクに晒されている、等々、相応のデメリットが存在します。

そこで、自社で十分な資金が調達出来るのであれば自社株を買い戻し、全株を自社で保有したいと考える企業も存在します。実際に、上場を廃止する企業の半数近くは、その理由として「株式の全取得」をあげています。

株式を保有していた投資家に対しては、自社株を買い戻す時点での株価に応じて、相応のお金を還元することになるので、彼らの投資に対しても責任を果たしています。これが、「自社株買い」です。

 

 

株価への本質的な影響

これら、株式を利用した企業の資金繰り活動は、企業の株価にどのような影響を与えるでしょうか?増資を例にとって考えてみましょう。

 

まず大原則として、増資をしてもそれだけでは企業の売上げや利益は変わりませんが、一方で発行されている株式の総数が単純に増えるため、一株当たりの利益の希薄化をまねくことになります。既存の株主にとっては、「企業が増資をする」というのは、そのままでは株主として損をすることを意味する、これが基本です。この「一株利益の希薄化」は、公募増資であろうと第三者割当増資であろうと変わらず起きることになります。

しかし、資金調達によって設備投資を行ったり、何かしら事業を拡大することにより、企業の利益自体が増加すれば、希薄化した分以上に一株当たりの利益が増えることも有り得ます。そうなるのであれば、既存の株主にとってポジティブな増資になります。

 

 

株価への影響、実例や最近の動向

改めて増資を例にとって、実例を見てみましょう。

 

2008年の金融危機以降、三菱東京UFJ・みずほ・三井住友のメガバンクや、野村証券・大和証券などの大手金融機関は、こぞって増資をしました。しかしこれらはさらなる利益拡大に繋げる為の資金調達ではなく、単にマクロ経済の影響によりその当時の財務基盤が弱まっていたことの補填であり、ネガティブな増資でした。

その為、既存の株主達はこの増資案に対してネガティブなリアクションを示し、これらの大手金融機関は、全て増資発表後に株価が大暴落を起こしています。特に、財政難から2度に渡り数千億円規模の増資を行った野村証券には、非難が相次ぎました。

公募増資だろうと第三者割当増資だろうと、先ほど説明した通りその瞬間には既存株主の価値は希薄化されますから、近年では、傾向としては株価は下がるケースが多いです。

 

 

個人投資家はどうするべきなのか

では一体、個人の投資家はどうすれば良いでしょうか?

今申し上げた通り、最近の動向としては一株利益の希薄化により増資発表後に株価が下がることが多いのは事実ですが、一方、会社が資金調達によって更に大きく成長できると多くの投資家が判断するのであれば、増資発表後でも株価は上昇することもある。これも事実です。

また、収益増加に繋がらない増資の場合でも、そのことが事前に予測されていてすでに株価に織り込まれており、株価が増資発表の前に必要以上に下がっている場合には、増資発表後に株価が下がらず、材料が出尽くしたということで逆に反発するケースもあります。

一つ結論づけるとすれば、増資発表を材料にした投機合戦は、情報力でも分析力でも個人投資家は圧倒的に不利なので、参加するのは極めてリスクが高いということです。

 

 

まとめ

「増資」と聞いただけで、「何か起こるのかもしれない!」と期待して考え無しに買ってしまう個人投資家が論外なのは勿論ですが、多少増資に関する知識を蓄えた中途半端な投資家達でも間違える要素は多数あるわけです。それでも尚、自分は外資系の投資銀行以上の分析が出来るという自信のある方は、是非企業の「増資」に合わせたトレーディングに挑戦してみてください。

 

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片桐 峻

投資家、ファンドマネージャー。
日本にいる時は、時間を見つけてブログの読者さんとお茶しています。
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