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2016年06月07日

金融界を揺るがした3つの投資巨額詐欺事件

 

サマリー

・過去には、被害総額数千億円~数兆円にも及ぶ卑劣な投資詐欺事件が実際に起こっている

・具体的に、「AIJ事件」「ストラトン証券詐欺」「バーナード・マドフ事件」などが挙げられる

・過去の巨額詐欺を教訓にすれば、数々の「投資話」には大変危険なものが混じっていることがわかる。

 決して安易に鵜呑みにせず、きちんと自身の目で確認する必要がある。

 

世の中には、にわかに信じ難い投資犯罪が存在します。今回は、投資に関する過去の大型犯罪を3つご紹介し、「投資話」にはときに大変な危険が伴うことをご理解頂きたいと思います。

 

 

CASE 1 AIJ投資顧問年金詐欺事件

「AIJ、年金2,000億円の大半消失」

 

2012年2月24日、新聞の朝刊一面に上記のような見出しが掲載され、金融業界に大きな衝撃を与えました(日経新聞「受託年金2,000億円、大半が消失 AIJ投資顧問」)。記憶に新しい方も多いかもしれません。この新聞の一報によって公表され、社会的に大きく非難されたのが「AIJ年金詐欺事件」です。

 

AIJ年金詐欺事件とは、投資顧問会社だったAIJが年金基金などの顧客に対して虚偽のファンド運用実績を提示し、判明しているだけでも約248億円もの資金を顧客から騙し取った巨額詐欺事件です。AIJが顧客から預かった受託元本は総額およそ1,458億円にも及びました。預かった資金は主にデリバティブ(金融派生商品)と呼ばれるハイリスクな運用に回され、2003年3月期から2011年3月期までの累計損失は約1,092億円にも上りました。2012年3月に証券取引等監視委員会がAIJを検査した結果、AIJの残余資産は81億円程度しかなかったと言われています(日経新聞「AIJ、運用損失1,092億円 残る現預金は81億円」)。

 

上記新聞記事の「年金2,000億円の大半消失」というのは、運用能力の稚拙さゆえに、AIJが預り資産の大半を投資の失敗によって失わせた事実を報じたものだったわけです。なお、AIJの実際の預かり資産は約1,458億円でしたが、AIJはファンド資産を2,000億円程度に水増しして公表していたため、新聞のAIJ事件第一報では「年金2,000億円の消失」とされていました。

 

AIJは運用期間中、顧客資産に損害を及ぼし続けていたにも関わらず、虚偽の高実績を公表し続けた上、さらに新規顧客などを欺いて巨額の資金を騙し取っていたことになります。

 

結局、2016年4月、AIJ元社長の浅川和彦被告(63)ら3人の役員に詐欺などの罪で実刑判決が確定し、浅川被告は懲役15年の刑に処されることになりました(日経新聞「AIJ事件で実刑確定へ 年金詐欺、元社長らの上告棄却」)。もちろん実刑が確定したからといって、AIJに資金を預けた顧客の巨額の損失が埋め合わせされることは到底望めません。

 

ファンドを売り込みに来た“投資のプロ”の言葉が全て嘘だったとしたら・・・資産運用を金融機関やファンドに託す顧客にとっては、本当に背筋の凍る事件といえます。

 

 

CASE 2 “ウルフ・オブ・ウォールストリート”

ここからは、海外の投資犯罪について見てみましょう。

 

2014年1月、日本でも公開されたレオナルド・ディカプリオ主演の映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。この映画のモデルとなった、過去に実在した証券会社のストラトン・オークモント社は、1997年当時、約2億ドル以上、日本円にして約260億円以上(1997年末の為替1ドル130円換算)の損害を投資家にもたらして破綻しました。当時、同社が投資家に被害を与えた犯罪手法が「pump-and-dump(偽情報)」という相場操縦スキームです。

 

「pump-and-dump」とは、次のようなスキームです。

1.  まず、事前にストラトン社が「ある株式」(仮に「A社株」としましょう)を大量に保有しておきます。

2.  次に、ストラトン社の顧客を偽情報で煽るなどして多額の資金を「A社株」に投資させ、「A社株」の株価を急騰させます。

3. そして、「A社株」がストラトン社の株式買付時よりもはるかに高い株価をつけたタイミングで、同社が手持ちの「A社株」を売り抜け、同社だけが不当に多額の利益を得られるよう仕向けます。

 

ストラトン社は、上記のような大変悪質な手法を用いて、顧客に大きな損害を被らせました。偽情報などで実体的な裏付けなく高騰した株価は、一時的な「バブル」のようなものに過ぎません。「pump-and-dump」によって騙された顧客が購入した株式は、時間が経つとその株価を急落させることがほとんどですから、顧客の損害発生はほぼ避けられないのです。

 

また、ストラトン社の創業者であるジョーダン・ベルフォート氏(53)を始めとする同社役員は、麻薬の常習など破天荒な生活ぶりでも有名になりました。そのため、ベルフォート氏は大変な悪評を被りましたが、驚くことに、今では上記映画のヒットのおかげか、ベルフォート氏は講演会などで活躍する有名人となっています。

 

顧客を欺いて大損害を及ぼした証券会社の創業者が、今では人気講師として成功している現実・・・損害が未だ補償されていない投資家もいる中、過去の被害者たちの胸中はとても計り知れません。

 

参考記事

・「ウルフ・オブ・ウォールストリート」に描かれた証券詐欺と戦った弁護士たち – http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702304299204579281484100002764

 

 

CASE 3 史上最大の金融詐欺、バーナード・マドフ事件

最後に取り上げるのは「ポンジ・スキーム」、いわゆる「ねずみ講」の事件です。

 

米ナスダック・ストック・マーケット元会長のバーナード・マドフ氏(77)は、「ポンジ・スキーム」によって世界中の投資家から資金を集め、巨額の被害を与えたとして2008年12月に逮捕されました。一般に、このマドフ氏の詐欺事件は「バーナード・マドフ事件」と呼ばれます。

 

「ポンジ・スキーム」とは、高配当などをうたって集めた資金を契約通り運用せず、ひたすら利益分配などの原資にすることを繰り返す仕組みをいいます。

 

例えば、あるファンドが「年10%の利回りを毎年絶対に達成します」と約束していたが、その実態は「ポンジ・スキーム」だったとしましょう。このファンドの最初の顧客のAさんが1,000万円投資した場合、Aさんの資金は1年後に1,100万円になっていなければなりません。しかし、このファンドに運用の実体がなかった場合、Aさんとの利回りの約束を果たすことは不可能です。そこで、Aさんとの約束を外見上果たすために、Aさんより後にファンドに投資したBさんやCさんの新規資金を原資にして、Aさんの資金が1,100万円に増えたかのように偽装することになります。そして、BさんやCさんの資金増加をも偽装するために、BさんやCさんの後にファンドに新規投資したDさん、Eさん、Fさん、Gさん・・・といった後続の投資家たちの資金を原資としなければならなくなります。こうして、「ポンジ・スキーム」はまさに自転車操業のごとく資金を流用し続けるのです。

 

このような「ポンジ・スキーム」は、新規の投資家が登場し続ける限り破綻しません。新規投資家が飛躍的に増加している場合、「ポンジ・スキーム」は詐欺どころか優良ファンドに見えてしまうのです。しかし、既存の投資家を支えるだけの新規投資家が現れなくなった場合、「ポンジ・スキーム」は必ず破綻します。「ポンジ・スキーム」は、典型的な詐欺の手口なのです。

 

ところが、バーナード・マドフ事件が異常だったのはその被害規模でした。マドフ氏は数十年間にわたって投資家を欺き続け、その被害総額は約650億ドル、日本円にして約6兆円弱(マドフ氏逮捕の2008年12月末為替1ドル90円換算)にも上ると言われています。この被害総額の大きさから、バーナード・マドフ事件は史上最大の巨額詐欺事件として知られています。被害者の中には、英系ヘッジファンド大手マングループ、英大手銀行ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド、英銀HSBC、仏銀BNPパリバ、オランダのフォルティス銀行、日本の野村証券など、金融のプロであるはずの企業までもが多数含まれていました。この一連の被害者をみても、バーナード・マドフ事件の特異性が窺い知れるかと思います。

 

 

「どんな金融のプロでも見抜けない詐欺があり得る」

私たち一般の投資家としては、常にこの詐欺の恐ろしさを肝に銘じておく必要があります。相手の肩書や実績がどんなに信頼できそうなものであっても、実際の投資に当たっては、複数の監査機関のリサーチなど客観的で信頼のおける根拠が必須であることを強調しておきます。

 

 

まとめ

私たち投資家にとって、投資詐欺の危険性は常に身近にあるものといえます。過去、信じ難い規模の巨額詐欺や大手金融機関までもが被害を受けた事件が実際に起きていることを教訓にして、数々の「投資話」を安易に鵜呑みにすることが絶対にないようにご注意ください。利回りなどといった甘い汁に安易に飛びつくことなく、その実態や信頼性をきちんと確認してから投資を検討するようにしましょう。

 

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片桐 峻

投資家、ファンドマネージャー。
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