資産運用 Lab.
第二章 隻眼の相場師(前編)
モーゲージ債に疑いの目を向けたもう一人の男、バーリは医師だった。
バーリはどうしたら、モーゲージ債を空売りできるかを考え、ある保険に目をつける。
「小切手を切れば、会議に出席せずにすむ」 – ウォーレン・バフェット
要約
2004年のはじめ、もう一人の株式投資家マイケル・バーリが道の領域だった債券市場に夢中になっていた。とりわけ知りたかったのは、サブプライム・モーゲージ債の仕組みである。
ただし、マイケル・バーリはモーゲージ債を買おうと考えているわけではなかった。
サブプライム・モーゲージ債を空売り(ショート)する方法を探していた。
“金利支払い(インタレストオンリー)元本逓増変動金利型サブプライム・モーゲージ”という最底辺の貸し出し基準において、住宅購入者に与えられた選択肢は、「一切支払いをせず、銀行に支払うべき金利をまとめて、もっと高額な元本に一本化するというもの」だった。
こんな条件に飛びつくのは、収入のない人間ばかりだったにも関わらず、なぜ“貸し手”がこんなローンを組むのか、バーリは理解に苦しんだ。
「借り手ではなく、貸し手の方に目を光らせるべきですね。節度を保てるかどうかは、貸し手次第で、貸し手が節度を失ったときは、気をつけないといけません」
加えてバーリはこうも言っている。
「貸し手が節度を失っているという明らかな徴候でしたね。ローンのかさを増やすために、条件をどんどん緩めているんですから」
当時のバーリは、一つの問題を抱えていた。それは、サブプライム・モーゲージ債は空売り(ショート)できないということだった。
モーゲージ債を空売りする方法を探す
その2年ほど前、バーリはクレジット・デフォルト・スワップ(Credit default swap, 以下CDS)に目を留めた。
バーリはサブプライム・モーゲージ債に対するCDSを考えていた。
CDSは当時リスクヘッジの手段だった。そもそも GEの債務不履行を避けたいのであれば、GEに金を貸さなければよいのだから。
ところが、この新しいデリバティブ商品はたちまち投機の手段となった。大勢の人間がGEが債務不履行に陥る方にかけたがっていたからだ。
ここでバーリはふと、サブプライム・モーゲージ債に対してもウォール街は同じことをするに違いないと考えた。
不動産市場の現状が明らかになれば、やがて大勢の人間が、サブプライム・モーゲージ債の破綻(デフォルト)に賭けたくなるだろうと。
その唯一の方法がCDSを購入することだった。
唯一の問題は、どこを見渡してもサブプライム・モーゲージ債に対するCDSなどというものが見当たらないところだった。
ウォール街の投資銀行を焚きつけて創らせるしかなさそうだったが、保険の値打ちが上がった途端に廃業するようなところから保険を買っても、なんの意味もない。
暴落を耐え凌ぎそうな候補のうち、少しでもまともに取り合ってくれたのはドイツ銀行とゴールドマン・サックスの2社だけだった。
バーリの知る限り、自分と同じ方向を向いている人間は、ウォール街には一人もいなかった。
それから3年と経たないうちにサブプライム・モーゲージ債に対するCDS市場は1兆ドルに達し、ウォール街の大手投資銀行に数千億ドルの損失を生じさせることになるというのに・・・
補足情報
CDSとは
CDS(Credit Default Swap)とは、主に社債を対象とした保険契約のことで、半年ごとに保険料(プレミアム)を支払う、固定金利付きの商品を指す。