資産運用 Lab.

第四章 格付け機関は張り子の虎である(前編)

ウォール街に就職できない人間が格付け機関に就職する。投資銀行にとって彼らの裏をかくことは朝飯前。アイズマンらはそのからくりの究明に着手することに

 

 

要約

 

AIG・FPは納得していなかった。警鐘を鳴らしたのは、ジーン・パークという人物だった。パークは幾つかの推断を下した。AIG・FPが保証する消費者ローンの山の性質が変わってきていること。その山に、大方の想定をはるかに上回る率でサブプライム・モーゲージが含まれていること。もし、アメリカの住宅所有者が雪崩を打つように債務不履行に陥り始めた場合、その損失を補うのに必要な資本をAIG・FPがまったく準備していないこと…

 

 

無知の対価

ジーン・パークはAIG・FPが保証しているその種のローンについて、もう少し詳しく調べることにした。そして、その外見と中身のあまりの差に愕然となった。

分散された多様な消費者ローンの山とされていたもののほぼ全部が、今やサブプライム・モーゲージで構成されている。パークは密かに調査を進めた。CDSの販売決定に最も深く関与していた人々に、そういうローンの何パーセントがサブプライム・モーゲージで構成されているのか尋ねて回った。ある人は10%未満と見積もり、またある人はは20%と見積もった。誰一人として、答えが95%だとは知る由もなかった。

パークは、AIG・FP社長のジョー・カッサーノの招集を受けてロンドンでの会議に出席した。そこで自分の率いる会社がトリプルAの分散された消費者ローンのプールに見せかけたトリプルBのサブプライム・モーゲージ債を500億ドル分ロングしているという事実を突きつけた。

カッサーノは始め怒り狂ったが、それでも、ウォール街のすべての大手投資銀行と会合を持ち、そういう取引の正当性について話を聞くことに、また、怪しげなローンの集まりをトリプルAの債券に変換する過程について掘り下げてみることに同意した。

一連の会合に出席したAIG・FPのトレーダーたちは、サブプライム・モーゲージの土台になっているらしい概念や分析の貧弱さを知って愕然とした。そう悟った途端、そして、自分なりの考えで捉え直した途端、カッサーノは方針を翻した。2006年始めには、公式にジーン・パークの意見を受け容れ、AIG・FPはこれ以上そういう取引を行わないことを表明した。ただし、すでに保証しているものについては保証を継続した。

 

 

ショートする側を探す

リップマンには味方が欲しかった。リップマンの上司たちの望みもリップマンが、GSの手口に倣って、その新しい市場の中央に陣取り、買い手と売り手を通行させて金を稼ぐことだった。

ほどなくリップマンが気づいたのは、モーゲージ債トレーディングに特化したファンドの運営者たちこそ一番の味方になり得ると考えた。住宅価格や住宅関連株の下落リスクの影響を受けやすい株式投資家を探し出して、自分のアイデアをヘッジの一手段として売り込んだ。

「株が上がり続ければ大儲けできるわけでしょう?“ぽしゃった”ときに備えて、ちょっとだけ保険をかけておきましょうよ」と。

大手のサブプライム金融業者の大口株主全員の名簿を手に入れたが、なかでも突出していたのが、フロントポイント・パートナーズというヘッジファンドだった。リップマンはドイツ銀行内の関連部署のセールスマンに頼んで面談の約束を取り付けた。

 

スティーヴ・アイズマンのオフィスに到着したリップマンはアイズマンの意外な言葉に出迎えられた。「うちはニュー・センチュリーの株を“ショート”しているフロントポイントです。」すでにアイズマンはその種のローンで購入された住宅の建設業者の株が下落する方に賭けていた。

リップマンは大きな当たりくじを引いた。だから、話を断られたときには、ひどくとまどった。それはモーゼズはひと目でリップマンに不信感を抱いていたからだった。

 

緊急のニュースが2件飛び込んできて、2人はリップマンどころではなくなった。

2006年5月、S&Pがそれまで使っていた格付けモデルの改正を発表したというものだ。モデルの改正は2006年7月1日に実施されるが、それ以前に発行されたサブプライム債はすべて、新モデルより厳格さで劣るとされる旧モデルによって格付けされるとう。たちまちサブプライム債の発行数は急増した。ウォール街の大手投資銀行にも、自分たちの創り出した債券が過大評価されているという自覚があったらしい。

もう1件は住宅価格がらみのニュースだった。2006年夏、ケース・シラー住宅価格指数がピークに達したあと、国中の住宅価格が下がりだした。年間では、全国平均で2%の下落を記録した。

 

 

トリックスター>

世紀の空売り>

ライアーズ・ポーカー>


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第四章 格付け機関は張り子の虎である(前編)

ウォール街に就職できない人間が格付け機関に就職する。投資銀行にとって彼らの裏をかくことは朝飯前。アイズマンらはそのからくりの究明に着手することに

 

 

要約

 

AIG・FPは納得していなかった。警鐘を鳴らしたのは、ジーン・パークという人物だった。パークは幾つかの推断を下した。AIG・FPが保証する消費者ローンの山の性質が変わってきていること。その山に、大方の想定をはるかに上回る率でサブプライム・モーゲージが含まれていること。もし、アメリカの住宅所有者が雪崩を打つように債務不履行に陥り始めた場合、その損失を補うのに必要な資本をAIG・FPがまったく準備していないこと…

 

 

無知の対価

ジーン・パークはAIG・FPが保証しているその種のローンについて、もう少し詳しく調べることにした。そして、その外見と中身のあまりの差に愕然となった。

分散された多様な消費者ローンの山とされていたもののほぼ全部が、今やサブプライム・モーゲージで構成されている。パークは密かに調査を進めた。CDSの販売決定に最も深く関与していた人々に、そういうローンの何パーセントがサブプライム・モーゲージで構成されているのか尋ねて回った。ある人は10%未満と見積もり、またある人はは20%と見積もった。誰一人として、答えが95%だとは知る由もなかった。

パークは、AIG・FP社長のジョー・カッサーノの招集を受けてロンドンでの会議に出席した。そこで自分の率いる会社がトリプルAの分散された消費者ローンのプールに見せかけたトリプルBのサブプライム・モーゲージ債を500億ドル分ロングしているという事実を突きつけた。

カッサーノは始め怒り狂ったが、それでも、ウォール街のすべての大手投資銀行と会合を持ち、そういう取引の正当性について話を聞くことに、また、怪しげなローンの集まりをトリプルAの債券に変換する過程について掘り下げてみることに同意した。

一連の会合に出席したAIG・FPのトレーダーたちは、サブプライム・モーゲージの土台になっているらしい概念や分析の貧弱さを知って愕然とした。そう悟った途端、そして、自分なりの考えで捉え直した途端、カッサーノは方針を翻した。2006年始めには、公式にジーン・パークの意見を受け容れ、AIG・FPはこれ以上そういう取引を行わないことを表明した。ただし、すでに保証しているものについては保証を継続した。

 

 

ショートする側を探す

リップマンには味方が欲しかった。リップマンの上司たちの望みもリップマンが、GSの手口に倣って、その新しい市場の中央に陣取り、買い手と売り手を通行させて金を稼ぐことだった。

ほどなくリップマンが気づいたのは、モーゲージ債トレーディングに特化したファンドの運営者たちこそ一番の味方になり得ると考えた。住宅価格や住宅関連株の下落リスクの影響を受けやすい株式投資家を探し出して、自分のアイデアをヘッジの一手段として売り込んだ。

「株が上がり続ければ大儲けできるわけでしょう?“ぽしゃった”ときに備えて、ちょっとだけ保険をかけておきましょうよ」と。

大手のサブプライム金融業者の大口株主全員の名簿を手に入れたが、なかでも突出していたのが、フロントポイント・パートナーズというヘッジファンドだった。リップマンはドイツ銀行内の関連部署のセールスマンに頼んで面談の約束を取り付けた。

 

スティーヴ・アイズマンのオフィスに到着したリップマンはアイズマンの意外な言葉に出迎えられた。「うちはニュー・センチュリーの株を“ショート”しているフロントポイントです。」すでにアイズマンはその種のローンで購入された住宅の建設業者の株が下落する方に賭けていた。

リップマンは大きな当たりくじを引いた。だから、話を断られたときには、ひどくとまどった。それはモーゼズはひと目でリップマンに不信感を抱いていたからだった。

 

緊急のニュースが2件飛び込んできて、2人はリップマンどころではなくなった。

2006年5月、S&Pがそれまで使っていた格付けモデルの改正を発表したというものだ。モデルの改正は2006年7月1日に実施されるが、それ以前に発行されたサブプライム債はすべて、新モデルより厳格さで劣るとされる旧モデルによって格付けされるとう。たちまちサブプライム債の発行数は急増した。ウォール街の大手投資銀行にも、自分たちの創り出した債券が過大評価されているという自覚があったらしい。

もう1件は住宅価格がらみのニュースだった。2006年夏、ケース・シラー住宅価格指数がピークに達したあと、国中の住宅価格が下がりだした。年間では、全国平均で2%の下落を記録した。