資産運用 Lab.
11. 富豪たちの一大事
要約
ロナルド・ペレルマン買い付け騒ぎから2週間もたたないうちに、ぼくはひとつの指示を、いや、命令を受けた。新たにジャンク・ボンドをソロモン・ブラザーズの優先販売物件にする、と。驚くべきことに、売る商品までちゃんと用意されていた。
全米のセブンイレブン総元締めであるサウスランド・コーポレーションの経営陣が、1987年7月、49億ドルの資金を調達して、自社を買収したのだ。ソロモン・ブラザーズとゴールドマン・サックスがつなぎ融資と呼ばれる短期ローンでカネを貸し出した。
つなぎ融資は、すみやかにサウスランド名義のジャンク・ボンドに変換される。そのジャンクが投資家に売り出されて、わが社にカネが戻ってくる仕掛けだ。
ただひとつのひっかかりは、なぜか投資家たちがこのジャンクを敬遠していることだった。ぼくらセールスマンは売る努力が足りないといって責められた。
ソロモンのジャンク・ボンド担当者たちは、サウスランドは得な投資だと力説していたが、それは当然だろう。この取引で、得るものが一番大きい(利益にして3千万ドル)のも、失うものが1番大きい(自分たちの職)のも、彼らなのだから。
犬のえさほどの値打ちしかない債券だったとしても、正直にそう言うはずがない。ボーナス日も近づき、正直さという商品は急速に値を下げていた。
その年の新年の誓いで、ぼくは、自分が薦めたくないものはひとに売るまいと決めた。11月を前にして、誓いはすでに破られていた。危険は買い手が負担するというのが金融市場の鉄則だとはいっても、ぼくにはやはり、自分がいかがわしい仕事をしているという感覚がつきまとった。そして、それはぼくだけではなかった。
サウスランド債に関しての悩みは、どうやって客に買う気を起こさせないようにするかということだった。
これは、口で言うほど簡単なことではない。債券を売らない技術は、債券を売る技術より高等で複雑だ。上司とスカッシュの試合をしているようなもので、勝ちたいと思っているようなふりをしながら、同時に負けるための工夫をしなくてはならない。
セールスマンの尻をたたくことを職務とするニューヨークの取締役たちから、ぼくのところに何本も電話がかかった。首尾はどうだ、と彼らは聞いてきた。ぼくはうそをついた。1本もセールスの電話をかけていなかったのに、サウスランドを売るために最大限の努力を払っていると答えたのだ。
ぼくの売らないためのがんばりが正しかったことは、じきに証明された。サウスランド債は、ほんとうに悪運を呼ぶ債券だったのだ。
1987年10月半ば、ロナルド・ペレルマンとの短い対決の疲れもいえないうちに、ソロモン・ブラザーズは史上例を見ないほど集中的な打撃を浴びることになった。
8日の間に、起伏の多すぎるジェットコースターさながら、次から次へと事件が持ち上がった。一撃ごとに威力を増すパンチに、ソロモンがいいようにいたぶられるのを、ぼくは間近に観察していた。
いくらかは自業自得の気味もある数十人という犠牲者が、不幸のなだれに押しつぶされた。