資産運用 Lab.

2. カネのことは言うな

要約

 

1984年冬のある夜、ロンドン大学経済学部修士課程を終えようとしていた僕は皇太后陛下の晩餐会に呼ばれた。本来なら僕のような普通の人間がセントジェームズ宮に呼ばれることはないのだが、ドイツの男爵と結婚した遠い親戚がいて、その縁でお声がかかったのだ。

その晩餐会はふたをあけてみると7~800人の保険業者による資金集めの催しだった。客はワインレッドの絨毯の上いっぱいに並んだ渋い色の木の椅子に座らされた。その会場のどこかにはソロモン・ブラザーズの重役が二人いるはずだった。

 

僕がそのことを知ったのは運よく僕の席がその二人の夫人に挟まれていたからだ。これがきっかけとなって次々と予想もつかないことが起こり、ついにはソロモン・ブラザーズから勤め口を与えられることになる。

 

 

僕には苦い思い出がある。

晩餐会から遡ること3年、学部の最終学年を迎えた1981年、僕はいくつかの銀行の入社試験を受けた。僕に接する試験官たちの態度は、どの銀行でも全く同じだった。

ひとつの問題に対して、ウォール街の男たちの意見があれほど一致した例を、僕はその後も目にしたことがない。履歴書を見てせせら笑う試験官もいた。大手の数社では君には営利感覚が欠けていると言われた。死ぬまで貧乏で過ごすしかないと言われたようなものだ。

 

当時の投資銀行の過熱ぶりは異常なものがあった。当時の僕たち大学生の頭には、いかにしてウォール街のアナリストになるかということしかなかった。

 

今になって言える教訓は、株であれ、債券であれ、勤め口であれ、同じ商品に大人数の人が集まるとその商品はたちまち過大評価されてしまうということだ。

 

 

リーマンの面接はふたりの試験官によって行われる。一人でも手ごわいのに二人となれば尚更だ。

僕の名前が呼ばれた。

目の前には僕の履歴書のコピーをかかえた若い男がいた。その男はまだウォール街で働き始めて一年足らずに見えたが、冷たい金属の机の向こうに座り、僕に質問を浴びせ始めた。

 

若い男「商業銀行と投資銀行の違いを説明してくれませんか」

僕「投資銀行は証券を引き受けます。株券とか債券です。商業銀行は融資だけを行います。」

若い男「アメリカのGNPの額を知っていますか」

僕「正確なところは知りません。五千億ドルくらいじゃないですか」

若い男「3兆ドルと言った方が近いでしょうね。あなたは、なぜ投資銀行に入りたいのですか」

僕「そうですね、単刀直入に言えばカネを稼ぎたいからです。」

若い男「いい理由とは言えませんね。長時間労働を強いられますから。金銭的な動機以上のものがないとやっていけません。・・・・・・・・・面接を終わります。」

 

 

面接を終わります? その言葉が耳に響き渡った。

 

 

補足情報

 

アナリストとは

一般的には、専門的知識を持って投資先の様々な情報収集や分析を行い、投資家にアドバイスをする職業です。証券会社などでは売買の意思決定に必要な情報集約という役回りが多いかと思います。「ライアーズポーカー」の中では奴隷として仕えるあわれな職種として紹介されています。

 

 

トリックスター>

世紀の空売り>

ライアーズ・ポーカー>


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2. カネのことは言うな

要約

 

1984年冬のある夜、ロンドン大学経済学部修士課程を終えようとしていた僕は皇太后陛下の晩餐会に呼ばれた。本来なら僕のような普通の人間がセントジェームズ宮に呼ばれることはないのだが、ドイツの男爵と結婚した遠い親戚がいて、その縁でお声がかかったのだ。

その晩餐会はふたをあけてみると7~800人の保険業者による資金集めの催しだった。客はワインレッドの絨毯の上いっぱいに並んだ渋い色の木の椅子に座らされた。その会場のどこかにはソロモン・ブラザーズの重役が二人いるはずだった。

 

僕がそのことを知ったのは運よく僕の席がその二人の夫人に挟まれていたからだ。これがきっかけとなって次々と予想もつかないことが起こり、ついにはソロモン・ブラザーズから勤め口を与えられることになる。

 

 

僕には苦い思い出がある。

晩餐会から遡ること3年、学部の最終学年を迎えた1981年、僕はいくつかの銀行の入社試験を受けた。僕に接する試験官たちの態度は、どの銀行でも全く同じだった。

ひとつの問題に対して、ウォール街の男たちの意見があれほど一致した例を、僕はその後も目にしたことがない。履歴書を見てせせら笑う試験官もいた。大手の数社では君には営利感覚が欠けていると言われた。死ぬまで貧乏で過ごすしかないと言われたようなものだ。

 

当時の投資銀行の過熱ぶりは異常なものがあった。当時の僕たち大学生の頭には、いかにしてウォール街のアナリストになるかということしかなかった。

 

今になって言える教訓は、株であれ、債券であれ、勤め口であれ、同じ商品に大人数の人が集まるとその商品はたちまち過大評価されてしまうということだ。

 

 

リーマンの面接はふたりの試験官によって行われる。一人でも手ごわいのに二人となれば尚更だ。

僕の名前が呼ばれた。

目の前には僕の履歴書のコピーをかかえた若い男がいた。その男はまだウォール街で働き始めて一年足らずに見えたが、冷たい金属の机の向こうに座り、僕に質問を浴びせ始めた。

 

若い男「商業銀行と投資銀行の違いを説明してくれませんか」

僕「投資銀行は証券を引き受けます。株券とか債券です。商業銀行は融資だけを行います。」

若い男「アメリカのGNPの額を知っていますか」

僕「正確なところは知りません。五千億ドルくらいじゃないですか」

若い男「3兆ドルと言った方が近いでしょうね。あなたは、なぜ投資銀行に入りたいのですか」

僕「そうですね、単刀直入に言えばカネを稼ぎたいからです。」

若い男「いい理由とは言えませんね。長時間労働を強いられますから。金銭的な動機以上のものがないとやっていけません。・・・・・・・・・面接を終わります。」

 

 

面接を終わります? その言葉が耳に響き渡った。

 

 

補足情報

 

アナリストとは

一般的には、専門的知識を持って投資先の様々な情報収集や分析を行い、投資家にアドバイスをする職業です。証券会社などでは売買の意思決定に必要な情報集約という役回りが多いかと思います。「ライアーズポーカー」の中では奴隷として仕えるあわれな職種として紹介されています。