資産運用 Lab.

5. ならず者たちの兄弟愛

要約

 

「1985年1月」

アメリカのモーゲージ市場は世界のどの金融市場より急速に成長しており、モーゲージ債を取引するのはソロモン・ブラザーズ社内でも一番人気の高い仕事だった。

ソロモン・ブラザーズで一番ということは、取りも直さずウォール街で一番ということだ。ソロモンのトレーディング・フロアはウォール街全体を支配しているのだから。

この時、紛れもなく彼ら精鋭部隊こそ、あの裕福な兄弟分たちこそ、ソロモン・ブラザーズのモーゲージ・トレーダーこそ、頂点に立つ者たちだった。

 

「1978~1981年」

ウォール街はカネの借り手と貸し手との仲を取り持つ。1978年春、ソロモン・ブラザーズがウォール街で初のモーゲージ部を創設するまで、借り手と言えば、大企業や連邦政府、州、地方自治体などのことだった。個人の住宅所有者は含まれなかった。

 

ソロモンの共同経営者のひとりロバート・ドールはそれを不思議なことだと思った。最も急速に成長しつつある借り手の集団は、政府でも企業でもなく、住宅所有者なのだ。

好意的な公共政策に促されて、S&L(貯蓄貸付組合)は成長し、1950年に550億ドルだったモーゲージ・ローンの貸付残高は、1980年には1兆2,000億ドルとなり、モーゲージ市場はアメリカの株式市場の時価総額を上回って、世界最大の金融市場の地位へ上り詰めた。

 

1977年9月、ドールはソロモン・ブラザーズにおけるモーゲージ債の責任者にのしあがった。彼はバンク・オブ・アメリカを説得し、住宅ローンを債券の形で売らせた。保険会社などの投資家を説得し、その新しいモーゲージ債を買わせた。

そうすることで、バンク・オブ・アメリカはもともと住宅所有者に貸し付けていた分を現金で受け取り、それをまた新たな貸し付けに回すことができる。住宅所有者はそれまでどおりバンク・オブ・アメリカあてに返済の小切手を切り続けるが、カネは債券を買ったソロモン・ブラザーズの顧客の手に渡ることになる。

 

これが将来の波だとドールは確信した。1978年春、ドールはこの市場に対する信念を3ページの覚書にまとめ、その結果、ジョン・グッドフレンドはモーゲージ部を新設する決断を下した。

債券を創り出すことも重要だが、トレーダーの確保も大問題である。債券を売るのも買うのもトレーダーだ。大物トレーダーの存在は投資家に自信を吹き込み、それだけで市場を成長させる力を持つ。

そして、そのトレーダーがソロモン・ブラザーズに利益をもたらす。それゆえに、人々からあがめられ、注目され、信頼されるのだ。

 

実績のある有能な人材を引き抜いてこなくてはならない。それは難問だった。しかし、ジョン・グッドフレンドのあと押しもあって、ドールは第一候補を獲得することができた。

ルーウィー・ラニエーリ。30歳の公益事業債トレーダーだ。

ラニエーリのモーゲージ部への移籍は、債券トレーダー黄金時代の前夜に行われた、タイミングのいい種まきだった。

1978年半ばのこの人事をもって、ソロモン・ブラザーズ内部で長く語り継がれるモーゲージ市場物語が幕をあけたのだ。

 

 

 

補足情報

 

S&L(貯蓄貸付組合)とは

アメリカにおいて個人の貯蓄と住宅ローンの貸付を行うことに特化した中小金融機関です。特徴としては、協同組合組織となっていることが多く、預金者と借り主に同等の投票権があり、直接経営参加が可能となっています。株式会社組織に変更することも可能ですが、その場合は直接経営に参加することはできなくなります。

1970年代までは最大のモーゲージ・ローンの提供者でしたが、金利上昇に端を発する経営悪化により1980年代には破たんが相次ぎました。

 

トリックスター>

世紀の空売り>

ライアーズ・ポーカー>


資産運用 Lab.

5. ならず者たちの兄弟愛

要約

 

「1985年1月」

アメリカのモーゲージ市場は世界のどの金融市場より急速に成長しており、モーゲージ債を取引するのはソロモン・ブラザーズ社内でも一番人気の高い仕事だった。

ソロモン・ブラザーズで一番ということは、取りも直さずウォール街で一番ということだ。ソロモンのトレーディング・フロアはウォール街全体を支配しているのだから。

この時、紛れもなく彼ら精鋭部隊こそ、あの裕福な兄弟分たちこそ、ソロモン・ブラザーズのモーゲージ・トレーダーこそ、頂点に立つ者たちだった。

 

「1978~1981年」

ウォール街はカネの借り手と貸し手との仲を取り持つ。1978年春、ソロモン・ブラザーズがウォール街で初のモーゲージ部を創設するまで、借り手と言えば、大企業や連邦政府、州、地方自治体などのことだった。個人の住宅所有者は含まれなかった。

 

ソロモンの共同経営者のひとりロバート・ドールはそれを不思議なことだと思った。最も急速に成長しつつある借り手の集団は、政府でも企業でもなく、住宅所有者なのだ。

好意的な公共政策に促されて、S&L(貯蓄貸付組合)は成長し、1950年に550億ドルだったモーゲージ・ローンの貸付残高は、1980年には1兆2,000億ドルとなり、モーゲージ市場はアメリカの株式市場の時価総額を上回って、世界最大の金融市場の地位へ上り詰めた。

 

1977年9月、ドールはソロモン・ブラザーズにおけるモーゲージ債の責任者にのしあがった。彼はバンク・オブ・アメリカを説得し、住宅ローンを債券の形で売らせた。保険会社などの投資家を説得し、その新しいモーゲージ債を買わせた。

そうすることで、バンク・オブ・アメリカはもともと住宅所有者に貸し付けていた分を現金で受け取り、それをまた新たな貸し付けに回すことができる。住宅所有者はそれまでどおりバンク・オブ・アメリカあてに返済の小切手を切り続けるが、カネは債券を買ったソロモン・ブラザーズの顧客の手に渡ることになる。

 

これが将来の波だとドールは確信した。1978年春、ドールはこの市場に対する信念を3ページの覚書にまとめ、その結果、ジョン・グッドフレンドはモーゲージ部を新設する決断を下した。

債券を創り出すことも重要だが、トレーダーの確保も大問題である。債券を売るのも買うのもトレーダーだ。大物トレーダーの存在は投資家に自信を吹き込み、それだけで市場を成長させる力を持つ。

そして、そのトレーダーがソロモン・ブラザーズに利益をもたらす。それゆえに、人々からあがめられ、注目され、信頼されるのだ。

 

実績のある有能な人材を引き抜いてこなくてはならない。それは難問だった。しかし、ジョン・グッドフレンドのあと押しもあって、ドールは第一候補を獲得することができた。

ルーウィー・ラニエーリ。30歳の公益事業債トレーダーだ。

ラニエーリのモーゲージ部への移籍は、債券トレーダー黄金時代の前夜に行われた、タイミングのいい種まきだった。

1978年半ばのこの人事をもって、ソロモン・ブラザーズ内部で長く語り継がれるモーゲージ市場物語が幕をあけたのだ。

 

 

 

補足情報

 

S&L(貯蓄貸付組合)とは

アメリカにおいて個人の貯蓄と住宅ローンの貸付を行うことに特化した中小金融機関です。特徴としては、協同組合組織となっていることが多く、預金者と借り主に同等の投票権があり、直接経営参加が可能となっています。株式会社組織に変更することも可能ですが、その場合は直接経営に参加することはできなくなります。

1970年代までは最大のモーゲージ・ローンの提供者でしたが、金利上昇に端を発する経営悪化により1980年代には破たんが相次ぎました。