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2016年12月19日

金融界の預言者メレディス・ホイットニー

 

サマリー

・メレディス・ホイットニーはシティグループの脆弱性を指摘し、CEOを辞任に追い込んだ「金融界の預言者」

・ホイットニー氏の主張は、ウォール街の腐敗ではなく彼らの“おつむ”が弱いということ

・ホイットニー氏もその後は苦しんでいる。分析のプロだからといって投資のプロとは限らない

 

 

シティグループの脆弱性を主張したメレディス・ホイットニー

メレディス・ホイットニー(Meredith Whitney)はオッペンハイマーというアメリカの投資銀行に所属していた無名のアナリストでした。

彼女が一躍脚光を浴びたのは、2007年10月のことでした。当時、無名の一アナリストでしたが、ホイットニーはタイムリーにシティグループの弱気見通しを示し、その数日後にシティの株価が急落しました。

 

2007年10月31日にホイットニー氏は、「シティはサブプライム市場の崩壊で大打撃を受け、その巨大さにもかかわらず自己資本の不足に陥る」とするリポートを公表しました。シティの自己資本比率は当時約2.8%と業界水準の半分程度であり、これを改善するために、配当を減らし・価値の高い資産を処分する必要があると主張しました。つまり「自己資本比率の適切でないシティグループの経営管理は非常にずさんである。配当金を削減しなければ破産に追い込まれるだろう」との見解を述べたのです。

 

ちょうど米連邦準備理事会(FRB)が連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、景気減速を警告した日だったこともあり、既にサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)関連で巨額の評価損を計上していた銀行にとっては追い討ちをかけられた状態となって、ホイットニー氏のこの発言をきっかけに、金融株の相場が大暴落し、シティグループの株価は8%も削ぎ落とされ、アメリカ株式市場の時価総額は3,900億ドルも下落しました。そして、その4日後には当時の最高経営責任者(CEO)であるチャック・プリンスを辞任に追い込み、シティグループは配当金を削減しました。

 

この事件を機に、ホイットニー氏はウォール街で最も有名なアナリストの1人となり、その後の2008年の世界的な金融危機をいち早く察知したとして「金融界の預言者」とまで呼ばれるようになりました。

 

 

ホイットニー氏は投資銀行の無能さを訴えていた

結果としてシティグループに大打撃を与えることとなりましたが、ホイットニー氏の主張の真意は「投資銀行にも関わらず、自己資本比率も正しく理解・コントロールすることができていないのが現状である」といったものだったと考えられます。

年収にして何千万〜数億円といったレベルの報酬を得て、“あたかも優秀かのように思われている”投資銀行の人たちが、自分たちの経営状態もままならない集団であるということを主張していたに過ぎなかったと、『世紀の空売り』や『ライアーズ・ポーカー』の著者であるマイケル・ルイス(Michael Monroe Lewis)は述べています。

 

ホイットニー氏は“結果として”ウォール街やそこにあった幾つかの金融機関を潰してしまったに過ぎず、彼女の主張は投資銀行の財務状況が悪化していることと、それを管理している“優秀なはず”の銀行員たちが何も理解していないといった内容でした。

 

 

ホイットニー氏の現在

シティグループの一件からサブプライムローンによる金融危機までの一連の流れの中で一躍時の人となったホイットニー氏は、2009年2月にオッペンハイマーを退社し、自身でホイットニー・アドバイザリー・グループという調査会社を設立しました。

 

しかし、金融危機をいち早く予言したホイットニー氏もその後はなかなか事業が勢いに乗らず苦戦を強いられているようです。3期連続で利益が上がらず顧客や従業員離れが激しいという噂も流れており、2013年半ばに事業を閉鎖している。

その後はSACキャピタルの元メンバーであるスティーブン・シュワーツ氏と共にケンベル・キャピタル(Kenbelle Capital)というヘッジファンドを立ち上げ、ブルークレストから5,000万ドル(約50億円)の出資を受けるなど再スタートを切ったかに見えましたが、こちらもあまり上手くいかずに2015年に閉鎖されています。

 

 

まとめ

ホイットニー氏のように、全く無名な人が突然大きな金融の動きを予測し一躍時の人になることはあります。個人のレベルで見ても突然FXで大当てし、運用の世界で目立つ人もいるでしょう。ただし、それが運やタイミングにも左右されるということを知っておく必要があります。

分析と運用は似て非なるものであるため、それがヘッジファンドとして形を成すのかはわかりません。金融の世界で成功しているといってもそこで必要とされる能力は多岐に渡ります。自身が投資しようとしているヘッジファンドなどが、“その投資の世界で”きちんと実績を残してきた、実力を有するものなのかきちんと検討する必要があるでしょう。

 

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