記事詳細

2016年09月03日

ヘッジファンドが企業を変える?「アクティビスト投資」の基礎知識

 

サマリー

・アクティビスト投資とは、経営参加権の行使により収益を最大化させようと試みる投資をいう

・アクティビストの戦略として、配当・自社株買い、合併、事業の分社化や売却などが挙げられる

・個人投資家がアクティビスト投資をポートフォリオに組み込む場合、ヘッジファンドなどを通じて行う必要がある

 

 

アクティビスト投資とは何か

アクティビスト投資とは、経営参加権を行使することで投資先企業に積極的な提言を行い、収益を最大化させようと試みる投資戦略(手法)をいいます。アクティビストは「物言う投資家」とも呼ばれており、企業に対する主な提言として「取締役等の交代・派遣」「M&A・事業譲渡」「配当・自社株買い」「買収防衛策の撤回」「事業再編」など幅広い内容が挙げられます。場合によっては、公開買い付け(TOB)、委任状争奪戦や会社に対する訴訟を行うこともあります。

 

日本で「アクティビスト」という言葉が一般的になったきっかけの一つが、いわゆるブルドックソース事件です。ブルドックソース事件とは、米ヘッジファンドのスティール・パートナーズがアクティビストとしてブルドックソース株式会社に対し敵対的買収を仕掛け、訴訟にまで発展した事件をいいます。結局、ブルドックソース株式会社の買収防衛策が裁判所に認められ、スティール・パートナーズによるTOBは不成功に終わりました。しかし、この事件を機に、アクティビスト・ファンドの存在が日本において強く印象付けられたと考えられます。

 

 

アクティビストの戦略

ハーバード・ビジネス・レビューの記事「企業はアクティビスト投資家の4つの狙いに備えよ」によると、近年、アクティビスト投資家の数が著しい増加傾向にあり、2014年にアクティビストの要求に従った企業は世界で344社に上るとされています。

 

同記事によれば、アクティビストの提案する戦略として、主に以下の4つが挙げられると考えられています。

■ 配当・自社株買いによる利回りの最大化

■ 競合企業同士の合併

■ 事業の分社化

■ 不振事業の売却

これらをまとめると、アクティビストは企業経営の効率化を促し、株主利益の最大化を追求する目的を有しているといえます。

 

「株主利益の最大化」とだけ聞くと、経営陣に強い圧力をかけるなどして比較的短期に利益を追求するアクティビストの姿を思い浮かべるかもしれません。しかし、最近ではアクティビストが多様化する傾向も見られており、長期的な企業価値向上を目指すアクティビストが増加しているともいわれています。例えば、四半期ごとの売上目標を絶対視する短期的方針を批判し、短期的なコスト増が予想されるとしても長期での利益増加を目指す株主提案を行うアクティビストが増えつつあると考えられています。

 

「アクティビスト」と聞くと、一部には未だに好ましくないイメージが先行していると見受けられます。しかし、近年の動向からすれば、今後、投資先企業に対して友好的なアプローチを取るアクティビストが主流となる可能性も大いにあるといえるでしょう。

 

 

アクティビスト投資の具体例

ここからは野村資本市場研究所のレポート「米国アクティビスト・ファンドの実態と資本市場における役割」を参考に、アクティビスト投資の具体例を見てみましょう。

 

トライアン・ファンドの例

アクティビスト投資を行うトライアン・ファンド(Trian Partners)は、2006年、ケチャップ・メーカーのH.J.ハインツの株式を5.4%保有した上で、全12議席中5人の取締役候補者を指名し、ハインツ社への経営参加を要求しました。ハインツ社の現経営陣は経営能力が低く、業績が悪化していると考えたからです。その上で、コストカットやコア事業への集中から広告手法の変更までを含む詳細なプランを提示しました。

 

トライアンとハインツ社との争いはメディアにより活発に報道され、その後のハインツ社の株主総会では、トライアンの提案の一部が可決されるに至りました。結果として、ハインツ社の株価はトライアンの介入の前後から大きく上昇し、トライアンによるハインツ社の投資は成功したといえます。

 

 

リレーショナル・インベスターズの例

同じく2006年、アクティビスト・ファンドのリレーショナル・インベスターズ(Relational Investors LLC)は、米国小売第2位のホーム・デポの株式を1.2%取得し、事業戦略の転換の必要性を説いたとされています。当初、リレーショナル・インベスターズとホーム・デポの争いは激化すると見られていましたが、当時のCEOの交替を機に、両社の交渉が始まりました。ホーム・デポは、リレーショナル・インベスターズとの攻防にかかる費用や委任状争奪戦を恐れて、早期にリレーショナル・インベスターズの要求に応じたと言われています。

 

結局、ホーム・デポはリレーショナル・インベスターズに対して取締役会の1議席を与えるとともに、同社の部門の一つを売却するに至りました。結果として、アクティビスト投資が巨大企業の戦略さえ変え得ることを示した一件だったといえます。

 

 

以上のように、アクティビスト投資は株主としての権利行使を通じて収益機会を生み出すものと考えられます。上記の事例などからわかるように、アクティビスト投資は総じて資金力の求められる手法であり、個人投資家が簡単に実践できるものではありません。ヘッジファンドなどによってのみ実践することができる高度な投資戦略といえるでしょう。

 

 

まとめ

アクティビスト投資は、高度な専門性や資金力を駆使して高い投資利益を狙うものと考えられます。個人投資家がアクティビスト投資をポートフォリオに組み込む場合、ヘッジファンドなどの活用を考える必要があります。ご関心のある方は、アクティビスト投資を実践するファンドなどに注目してみるといいでしょう。

 

関連ページ

アクティビスト投資とは(資産運用)

利益70億ドルも可能!?「イベント・ドリブン投資」とは何か(コラム)

 

 

片桐 峻

投資家、ファンドマネージャー。
日本にいる時は、時間を見つけてブログの読者さんとお茶しています。
興味ある方は以下からどうぞ。

管理人について
(お問い合わせ)