利益70億ドルも可能!?「イベント・ドリブン投資」とは何か
サマリー
・イベント・ドリブン投資とは、個別企業の重要な企業活動(イベント)を投資機会と捉える投資戦略をいう
・主にヘッジファンドなどが高い投資利益を狙いとしてイベント・ドリブン投資を行っている
・代表的なイベント・ドリブン投資として、裁定取引、ディストレスト戦略、スペシャル・シチュエーション戦略などがある
イベント・ドリブン投資とは何か
イベント・ドリブン投資とは、個別企業の重要な企業活動(イベント)の発生を投資機会と捉える投資戦略をいいます。対象となるイベントとして、合併・買収(M&A)、リストラ、業務提携、自社株買い、増資、スピンオフ、資本の還元などが該当します。確定した方法論やスタイルがあるというより、イベントに関係する投資機会を利用した投資戦略の総称を意味します。
代表的なイベント・ドリブン投資の一つとして、M&Aに関わる裁定取引が挙げられます。例えば、A社とB社が対等合併するとします。A社の株価が1,100円、B社の株価が900円で、合併比率が1:1だったと仮定します。この場合、合併発表後のA社とB社の株価は理論的に同一価格になるため、A社の株価は下落傾向に、B社の株価は上昇傾向になると考えられます。よって、A社株を空売りし、B社株を買った場合、それぞれ利ざやを期待することができます。この裁定取引のように、イベント・ドリブン投資においては、イベント発生後における投資対象の「理論的価格」を正しく把握することが重要となります。
イベント・ドリブン投資のメリットとして、短期間のうちにリターンを得られる可能性が高いことなどが挙げられます。しかし、投資対象の正しい「理論的価格」を迅速に分析することは容易とはいえません。一般的な個人投資家がイベント・ドリブン投資を実践するのは一筋縄では行かないと考えられますが、ここでは有名なヘッジファンドやそのトレーダーが過去に大きな利益を得たイベント・ドリブン投資による投資の例を紹介したいと思います。
ディストレスト戦略の第一人者、デビッド・テッパー
イベント・ドリブン投資の一つに「ディストレスト戦略」があります。ディストレスト戦略とは、経営破綻状態の企業や財務内容が極端に悪化した企業の株式・債券に投資を行い、業績回復後の大幅な利益を狙う戦略をいいます。
このディストレスト戦略の第一人者とされているのが、米ヘッジファンド運用会社アパルーサ・マネジメントのデビッド・テッパー氏です。2009年、テッパー氏はヘッジファンド業界の年間トップ報酬額40億ドルを手にしました。この報酬は当時の史上最高額でした。
テッパー氏がアパルーサ・マネジメントを通じて稼ぎ出した2009年の年間利益は70億ドルとされています。この巨額の利益をもたらした投資先の一つは、リーマン・ショック以降の金融危機の影響で経営不振に陥った米銀バンク・オブ・アメリカとシティグループの株式でした。
リーマン・ショック以降、米大手金融機関の破綻が相次ぎ、その破綻件数は2008年では25件、2009年では1月と2月のみで16件に達しました。当時、金融市場の混乱を受けて多くの投資家が銀行株を投げ売りしていたといいます。とりわけ、シティグループの株価は1ドルを切る場面まで見られました。しかし、2009年初頭、値崩れしていくバンク・オブ・アメリカやシティグループの株式を敢えて買い進めるのがテッパー氏の投資戦略でした。
テッパー氏が銀行株への投資を強気に進められた理由は、「米政府が出す財務報告を読んでいたから」だとテッパー氏本人が後に語っています。大手金融機関の救済に関する政府の発表資料を細かく分析した結果、バンク・オブ・アメリカやシティグループの株価が回復するとテッパー氏は確信したため、投資が失敗する可能性は低いと考えたのです。
こうして投資したバンク・オブ・アメリカとシティグループの株式のみで、テッパー氏は2009年9月に10億ドルもの利益を得ることができたといわれています。このような偉大な実績を受けて、テッパー氏は米国の金融市場で今や誰もが知る有名投資家の一人となっています。
「スピンオフ」に見るスペシャル・シチュエーション戦略
スペシャル・シチュエーション戦略とは、企業の合併・買収(M&A)、リストラ、業務提携、自社株買い、増資、スピンオフ、資本の還元などの特別な企業活動に投資機会を見出す戦略をいいます。この戦略は、上記M&A時の裁定取引やディストレスト戦略などの主要な投資戦略を除いたイベント・ドリブン投資の総称といってもよいかもしれません。
スペシャル・シチュエーション戦略で有名な投資家の一人がジョエル・グリーンブラット氏です。グリーンブラット氏は、1985年の設立から20年以上にわたって平均40%の年間リターンを上げた実績を持つ投資会社ゴッサム・キャピタルの創業者として知られています。
グリーンブラット氏の行うスペシャル・シチュエーション戦略の一つが、「スピンオフ(会社分割の一種)」を投資機会と捉える戦略です。スピンオフとは、ある会社がその子会社や事業の一部を別の会社として分離独立させ、親子関係を解消することを意味します。日本ではあまりスピンオフの事例は見られませんが、欧米ではよく利用されている事業分離の手法です。
グリーンブラット氏によると、スピンオフが有力な投資機会となり得る理由として以下のような根拠を述べています。
①スピンオフにより分割された企業の株式は、通常、親会社だった企業の株主に分け与えられる。そのため、株主は分割会社にあまり関心がなく、分け与えられた株式を株価に関わりなく売却する傾向にある。
②加えて、分割会社の規模が総じて小さいなどの理由から、機関投資家にとって投資妙味が薄いため、機関投資家もまた分割された会社の株式を売却しがちである。
③一方、分割された会社は経営効率を高める機会を獲得し、それまで見られなかった成長性が生じる可能性がある。
つまり、①及び②を理由として、スピンオフにより切り離された会社の株価は理論的な価格よりも割安になりやすいと考えられます。そこで、割安になりがちな分割会社の中から、上記③に該当するような投資妙味の高い企業を探し出すことによって、効率的な収益機会を見出すのです。
まとめ
イベント・ドリブン投資は、高い金融スキルや高度な財務的知識が求められる投資戦略と考えられます。個人投資家としてイベント・ドリブン投資を実践することは容易ではないかもしれませんが、ヘッジファンド等金融業界の話を理解する際には非常に重要になってきます。株式投資に関する知識として是非知っておいていただきたいところです。
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