「欧州の金融政策」入門
サマリー
・ユーロ圏の中央銀行であるECBが欧州の金融政策を決定し、欧州の物価安定と経済活性化を図っている
・ECBは主に「政策金利の引き下げ」「資産買入れプログラム」「ターゲット型資金供給」という3つの金融政策を行っている
・ECBの金融政策に対する理解を深め、市場の先行きを予測する精度を高めよう
世界経済の減速、欧州債務危機再燃の可能性、根強いデフレ懸念など、昨今欧州経済の不透明感が増しています。欧州経済の先行きを考える上で、欧州の金融政策を決定するECB(欧州中央銀行)の「次の一手」に注目する必要があります。ここでは、欧州の金融政策について解説します。
ECBって何?
ECB(European Central Bank)とは、ユーロ圏の金融政策を決定・実施する中央銀行です。ECBの最高意思決定機関は「政策理事会」と呼ばれる組織で、ECB総裁など役員会メンバー6名とユーロ圏の中央銀行総裁19名の、述べ25名で構成されます。ECBの最大の目的は物価の安定・維持を図ることですが、この目的に反しない限りにおいて、経済成長や雇用拡大のためにも活動します。現在のECB総裁はイタリアの経済学者マリオ・ドラギ氏で、ユーロ防衛のためなら「やれることは何でもやる」と発言したことで有名です。
ECBが打ち出した3つの金融政策
では、ECBの金融政策は具体的にどのようなものなのでしょうか。
ECBの金融政策は、主に以下の3つが挙げられます。
- 1. 政策金利の引き下げ
- 2. 資産買入れプログラム(APP=Asset Purchase Programmes)
- 3. ターゲット型資金供給(TLTRO=Targeted Longer-Term Refinancing Operations)
① 政策金利の引き下げ
ECBは、政策金利を引き下げることによってユーロ圏のマネー流通量を増加させ、欧州経済の活性化を図っています。
ECBは、EONIA(Euro Over Night Index Average)の操作により政策金利をコントロールしています。EONIAとは「ユーロ圏無担保翌日物平均金利」を意味します。これはユーロ圏のオーバーナイト金利、すなわち金融機関同士が当日貸し借りした資金を翌日に返済する場合の金利を指します。このEONIAがユーロ圏の短期金利の指標になります。正確に言えば、ECBはEONIAを直接コントロールするのではなく、中銀貸出金利(ECBが民間金融機関に資金を貸す際の金利。EONIAの上限になる)と中銀預金金利(民間銀行がECBに資金を預ける際の金利。EONIAの下限になる)の2つを操作することによって間接的にEONIAを誘導しています。加えて、ECBは主要政策の金利の1つであるリファイナンス金利(資金の借り換えの際の金利)も操作しており、全部で4つの金利をコントロールすることで金融政策を行っています。
2016年3月のECB政策理事会では、各政策金利は以下の通り決定しました。政策金利をいっそう低下させることによって、ECBは金融緩和政策の強化を狙ったものと考えられます。
- ・中銀貸出金利 0.25%
- ・中銀預金金利 −0.4%
- ・リファイナンス金利 0.0%
② 資産買入れプログラム(APP=Asset Purchase Programmes)
資産買入れプログラムとは、ユーロ圏国債などを中心に、ECBが民間銀行などの保有する資産を購入して市中のマネーを増大させる量的緩和政策です。2014年から始まった資産買入れプログラムは、2016年3月に月額800億ユーロ(ユーロ127円換算で約10兆円:2016年3月末時点)まで買入れ規模を拡大しました。資産買入れ対象も拡大され、それまでのユーロ圏国債などに加えて、投資適格社債を新たに買入れすることが決まりました。
③ ターゲット型資金供給(TLTRO=Targeted Longer-Term Refinancing Operations)
ターゲット型資金供給とは、民間銀行の貸出残高に応じて、ECBが民間銀行に低金利で資金供給を行う貸出支援策です。資金供給時の適用金利は通常、上記リファイナンス金利の0.0%とされていますが、民間銀行が貸し出しを一定の残高以上に増やした場合、ECBは民間銀行に対して最大マイナス0.4%の金利水準で資金供給を行う優遇措置を行います。このような貸出支援策によって、民間銀行が企業などに融資を増やすよう促し、ユーロ圏の経済活性化を図っているわけです。
以上のように、ECBは市中のマネー流通量を増やす政策を総動員している状態です。まさに、ドラギECB総裁の「やれることは何でもやる」という言葉通りの政策遂行と言えます。
ECBの「次の一手」はあるのか?
ECBは、可能な限りの金融政策を既に行っているように考えられます。しかし、依然として、欧州経済の回復が確実なものとは言い難い状況です。ECBの採り得る「次の一手」があるのか、金融市場においては懐疑的な見方も広がっています。
実際、ECB副総裁は2016年4月13日、「マイナス金利を金融政策として活用するには限界がある」と発言したと報じられています(ロイター「マイナス金利政策には限界=ECB副総裁」)。更なる政策金利の引き下げの可能性は、少なくとも当面の間は低いと考えられるでしょう。
ECBの金融政策に関して、今後の焦点は「資産買入れプログラムの拡充が行われるか」という点になると予想されます。世界の株式市場や為替市場は、しばらくの間、欧州資産買入れ上限月額の増額や買入れ対象資産の拡大がどれほど行われるかという点を今後の見通しのための材料として注視するのではないか、と考えられます。ECBの政策次第でマーケットの値動きが左右される可能性がありますので、ECBの政策動向に注目する必要があるでしょう。
以下は、2016年中のECB政策金利発表スケジュールです。ECBの政策金利発表は、世界の金融市場の先行きに対して、米国のFOMCに次ぐ影響力を持つイベントの1つと考えられます。当サイトの過去記事(米国の利上げがマーケットを動かす–FOMC徹底解説–)でご紹介したFOMCスケジュールとともに、ご参考にして頂ければ幸いです。
2016年ECB政策金利発表スケジュール
■ 4月21日: 政策金利発表21時45分予定(日本時間)
■ 6月2日: 政策金利発表21時45分予定(日本時間)
■ 7月21日: 政策金利発表21時45分予定(日本時間)
■ 9月8日: 政策金利発表21時45分予定(日本時間)
■ 10月20日: 政策金利発表21時45分予定(日本時間)
■ 12月8日: 政策金利発表21時45分予定(日本時間)
まとめ
欧州の金融政策を理解することによって、今後、ECBが発表する政策が市場にどのような影響を与えるのか、予測できる可能性が高まります。ECBに関する日々のニュースなどを的確に読み解き、是非高い投資パフォーマンスを目指して頂きたいと思います。