株価に影響する「株式交換」とは何か
サマリー
・株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社などに取得させることをいう
・2016年7月のトヨタ自動車によるダイハツ工業の完全子会社化など、株式交換は広く活用されている
・株式交換による株価の変動や訴訟などが起こる場合があるため、株式交換に関する報道を投資家としてチェックする必要がある
株式交換とは?
企業再編の手段として広く行われている株式交換は、投資家の損益に影響を与える場合があります。そこで、今回は株式交換について解説します。
株式交換とは、「株式会社がその全ての発行済株式を他の株式会社または合同会社に取得させること」をいいます。結果、発行済株式を取得する会社は完全親会社となり、発行済株式を取得される会社は完全子会社(100%子会社)となります。このときに、子会社となる会社の株主は、保有する子会社の株式を失う代わりに親会社となる会社の株式を取得します。つまり元々持っていた子会社となる会社の株式が親会社となる会社の株式と“交換”されます。
例えば、株式交換により、A社が親会社、B社が子会社となる場合、B社株主の保有するB社株式は親会社となるA社株式に交換されます。
このときにA社とB社の株式を同じ数だけ交換するとは限りません。一般にはB社の株X株に対して、A社の株Y株というように交換の比率が定められます。この比率を「株式交換比率」といい、例えばB社株2株に対してA社株1株が交換される場合、A社株とB社株の株式交換比率は1:2となります。
実際に行われた株式交換の例として、パナソニックによる三洋電機の完全子会社化のケースを見てみましょう。このときの株式交換比率は、三洋電機株1株に対してパナソニック株0.115株とされていました。つまり、三洋電機の株を10,000株保有していた場合、この株式交換によって、それがパナソニック株1,150株と交換されます。
この株式交換比率は、主に市場株価平均法(株式市場における一定期間の株価の終値平均を基準として株式を評価する手法)によって算出されたと考えられます。参考として、株主交換比率の算定基準日(株主交換比率の公表直前日2010年12月20日)直前3ヵ月間におけるパナソニックと三洋電機の双方の終値平均を見てみましょう。
算定基準日(2010年12月20日)直前3ヵ月間の終値平均は、パナソニック1,183円、三洋電機およそ135.7円です。これらの終値平均を基準に比較すると、三洋電機1株の価値はパナソニック0.1147株の価値にほぼ匹敵します。このような市場株価平均法を主な算定根拠として、三洋電機株1株に対してパナソニック株0.115株を交付する株式交換比率が決定されたとみられます。
この株式交換により三洋電機の上場廃止が決定しました。
株式交換時に発生する損益
株式交換に関する注意点として、株式交換の実施が公表された日の前後において、株式交換の親会社や子会社の株価が大きく変動する場合があることが考えられます。例えば、トヨタ自動車によるダイハツ工業の完全子会社化が報道されたその4日後には、ダイハツ工業の株価は株式交換の報道前と比べて約34%上昇しました。しかし、その後10日ほど経つと、ダイハツ工業の株価は株式交換の報道前と同水準まで再び下落しています。
株式交換に関する報道があった日の前後は、株式交換の親会社や子会社の株価の変動が大きくなる場合があるため注意が必要です。株式交換などの企業再編が投資家の損益に影響する場合があるため、投資家は保有株式に関する報道を常にチェックする必要があります。
今後の株式交換の実施予定
2016年5月22日時点における今後の株式交換の実施予定を見てみましょう。
これらの株は今後短期間の間に大きく値を動かす可能性があるため、上手く売買すれば収益を上げることができるかもしれません。
※これらの情報は投資収益を保証するものでも、またこれらの株式の売買を推奨するものでもありません。ご了承ください。
■ トヨタ自動車(7203)によるダイハツ工業(7262)の完全子会社化
トヨタ自動車は、グループ傘下のダイハツ工業を株式交換によって完全子会社化し、ダイハツ工業の株式を上場廃止とする予定です。ダイハツ工業の普通株式1株に対して、トヨタ自動車の普通株式0.26株を割当てることになっています。ダイハツ工業の最終売買日は2016年7月26日です。
■ 太平洋セメント(5233)によるデイ・シイ(5234)の完全子会社化
両社は太平洋セメントグループとして既に事業展開を行っており、今回の株式交換によるデイ・シイの完全子会社化はグループ再編の一環として行うとされています。デイ・シイ株式1株に対して、太平洋セメントの普通株式1.375株を割当てることになっています。デイ・シイの最終売買日は2016年7月26日です。
■ サーラコーポレーション(2734)による中部ガス(9540)及びサーラ住宅(1405)の完全子会社化
サーラグループは愛知県東部と静岡県西部を地盤とし、LPガス等のエネルギー供給事業などを展開しています。中部瓦斯の普通株式1株に対してサーラコーポレーションの普通株式0.47 株、サーラ住宅の普通株式1株に対してサーラコーポレーションの普通株式1.30 株をそれぞれ割当てることになっています。サーラコーポレーションの最終売買日は2016年6月27日です。
■ DCMホールディングス(3050)及びケーヨー(8168)が経営統合の協議開始
DCMホールディングスとケーヨーは、株式交換により、DCMホールディングスを完全親会社、ケーヨーを完全子会社とする経営統合を行うことを前提に、現在、協議を進めています。両社はそれぞれホームセンター事業を手掛けており、経営統合によるシナジー(相乗効果)創出を目指しています。今後の協議が順調に進んだ場合、改めて株式交換比率などの詳細が発表されることになります。
株式交換に株主として反対する場合
株式交換が行われる場合、株式交換に反対する株主は、その保有する株式を会社に買い取るよう請求することができます。この買取請求については、会社は反対株主の保有株式を「公正な価格」で買い取ることが求められます。しかし、反対株主の株式を買い取るに当たって、「公正な価格」とはいくらなのかが問題となることがあります。場合によっては、訴訟にまで至るケースもあり得ます。
例えば、2009年の日興コーディアルグループ訴訟においては、株式交換に反対する株主が保有する株式の「公正な価格」とはいくらなのかが争われました。「公正な価格」が高ければ反対株主にとって有利になる一方、「公正な価格」が低ければ会社にとって有利になります。実際、日興コーディアルグループ訴訟では、反対株主は日興コーディアルグループ株1株を“1,700円”で買い取るよう請求したのに対し、日興コーディアルグループは“1,268円”が妥当だと反論しました。
結論として、この訴訟においては、裁判所は反対株主側の主張を認め、日興コーディアルグループ株の「公正な価格」を“1,700円”と決定しました。日興コーディアルグループの株式交換比率が1,700円という価格を基準に算定されていたことが理由の一つです。このような反対株主の株式買取請求制度により、株式交換における株主の利益が保護されています。アクティビストファンドなどはこの「訴訟」を起こすことによって、自分たちの株の買取価格を少しでも高くする努力を行っています。
まとめ
投資家は、株式交換によって多大な影響を受ける場合があります。予期せぬ株価の変動が生じる場合などありますので、株式交換に関する報道に注意する必要が有ります。
また、株式交換に反対し保有している株の買取請求をすることもできます。買取価格によっては収益をあげることのできるポイントにもなりかねません。いずれにせよ、株の価値が大きく動く可能性のある株式交換の情報には注意しておく必要があります。
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